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商標よもやま話 9 「オリンピック」という言葉は誰のもの?


商標よもやま話 9 「オリンピック」という言葉は誰のもの?

 

オリンピックというイベントが近年ますます巨大化し、その開催・運営に巨額の資金が必要であることは広く知られている。そして、その資金調達のために、オリンピック関連の知的財産を利用するというビジネスモデルがロサンゼルス・オリピック(1984年)の際に確立されたと言われている。

 

日本において、IOC(国際オリンピック委員会)が所有する知的財産権の1つが「オリンピック(Olympic)」という言葉からなる商標権である。

 

日本の商標の登録要件から言えば、「・・・公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」と同一又は類似の商標は何人も登録することができない(商標法4条1項6号)。その立法趣旨は、そのような標章を一私人に独占させることは、権威の尊重や国際信義の観点から好ましくないからであるとされている。しかしながら、これには例外規定があり(商標法4条2項)、当該団体自身(例えば、IOC)がそのような標章(例えば、「オリンピック」)を出願する場合は登録が認められる。その理由は、当該団体がそのような標章を自ら商品・役務に使用する場合があるため、通常の商標権と同じ権利を与えておこうというものである。まさに、IOC/JOCがオリンピック標章を独占し、ブランド化するに好都合の規定である。

 

上記の規定は、旧法(大正10年法)には存在しなかった規定であり、現行法(昭和34年(1959年)法)において新設されたものである。現行法が施行されるまでは、誰でも自由に「オリンピック(Olympic)」の語を種々の商品に商標登録できたようである。特許庁の審査も大らかなものであったようである。以下の商標登録はその例である(*以下の商標登録の中には、個人によって登録された後、IOCに移転されたものもある。)。

 

 ・登録第265220号「オリンピック」第9類(防塵防じんマスク等)

  出願日:1934年11月5日 登録日:1935年5月16日

 ・登録第752581号「オリンピツク」第17類(被覆ゴム糸等)

  出願日:1957年5月1日 登録日:1967年8月23日

 ・登録第99160号「OLYMPIC」第28類(野球用具等)

  出願日:1918年6月20日 登録日:1918年12月27日

 

言うまでもなく、「オリンピック」はそもそも古代ギリシャで行われた競技大会の名称である。三省堂大辞林によれば、「オリンピック」の意味として以下の3つがある。

① 古代ギリシャのオリンピア祭での競技大会。古代オリンピック。

② 国際オリンピック委員会(IOC)が主催する競技大会。近代オリンピック。・・・

③ 国際的な競技会の通称。「技能-」

 

今日、我々は③の意味で「オリンピック」という言葉を理解し、使用することも少なくない。したがって、「日本数学オリンピック」という言葉が公益財団法人数学オリンピック財団によって商標登録されても(登録第4926121号)、さして違和感はない。「日本数学オリンピック」と「IOCが主催するオリッピック競技会」とを誤認・混同することはないからである。しかし、IOCはこの商標登録の取消しを目的として、2006年頃、特許庁に異議申立を行ったようである。異議申立の審理の結果、特許庁は「日本数学オリンピック」は「日本における数学の競技会」ほどの意味しか有しないとして、IOCの異議申立を棄却している。妥当な判断であると思う。

 

ところで、JOC(日本オリピック委員会)は、東京オリンピック招致の決定(2013年9月)の後、アンブッシュ・マーケティング(便乗商法)対策に躍起になっているようである。アンブッシュ・マーケティングとは、端的に言えば、オリンピックの協賛スポンサー以外の者がオリンピックに協賛しているふりをして自己の広告をすることである。アンブッシュを放置すると、巨額のスポンサー料を支払って正式なスポンサーになる意義がなくなり、オリピック関連の知的財産を核とするビジネスモデルが崩壊することになる。そこで、JOCは自己の知的財産の保護活動もさることながら、このビジネスモデルの維持のためにアンブッシュ対策を強化せざるを得ないのであろう。

 

JOCのアンブッシュ対策の影響を受けて、巷では、「東京オリンピックを応援しています。」とか「オリンピック開催記念セール」というような文言も気軽に使えなくなるのではないかと戦々恐々としているようである。(ケースbyケースであるが、このようなオリンピックの語の使用は商標的使用に該当しないため、商標権侵害や不正競争防止法違反に該当する場合は稀であると思われる。もっとも、ロンドンオリッピクの際に制定されたように、オリンピック開催前後の一定期間、「オリンピック」関連の文言を一律に禁止するという厳しい内容のアンブッシュ規制法が時限立法的に制定されれば、別途の考慮が必要となる。)

 

IOC/JOCが知的財産権の保護やアンブッシュ対策上、「オリンピック」等の語の使用に神経質になることは理解できない訳ではない。しかし、あまりに過剰な権利主張は、オリッピックを祝うという国民の雰囲気に水を差すことになり、経済活動への委縮効果すらもたらしかねない。また、公益的な観点から「オリンピック」等の商標登録が例外的に認められていること、オリピックという語の歴史的な意義、さらには争いのない世界を目指す平和の祭典というオリンピックの意義からしても、ICO/JOCによる過剰な権利主張には違和感がある。(文責 向口 浩二 2016年9月)

2016/09/29

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