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12.【事件】平成21年(行ケ)第10223号-審決取消請求事件-

【関連条文】特許法第29条第2項

1.事件の概要
不服2007-19569号の審決の取り消しを求めた。


2.経緯

平成 9年10月 3日 出願(特願平9-287946号)
平成18年 5月 8日 手続補正
平成19年 6月 6日 拒絶査定
平成19年 7月12日 拒絶査定不服審判請求
平成21年 6月30日 請求棄却審決
平成21年 7月14日 審決謄本送達
 


3.争点

補正後の発明(以下、本願発明と記す。)が、特許法29条2項により特許を受けることができるか否か。

<請求項1の記載>
検出セル内に導入されたキャリアガスをイオン化し、電子を放出させる電子放出手段と、  所定の電流値を設定する電流値設定手段と、

検出セル内に設けられた電極にパルス電圧を印加するとともに、上記電子による電流が前記所定電流値となるようにパルス電圧の周波数を制御するパルス制御手段と、

検出セルの初期状態における上記周波数の値f00と、試料分析の際に試料を検出セルに導入する前の上記周波数の値f0とを記憶する周波数記憶手段と、

検出セルに分析試料を注入した後のパルス電圧の周波数f並びに前記両周波数の値f00及びf0を用いて分析試料の濃度を算出する濃度算出手段と、を備えることを特徴とする電子捕獲型検出器。

<審決の理由の概要>
本願発明は、特開昭56-158940号公報(引用例)に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから特許法29条2項により特許を受けることができない。
 


4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張
① 審決は、検出装置一般において検出器の特性を補正することは本願出願前に周知であったとしつつ、これを引用発明に適用して本願発明の進歩性を否定した。しかし、本願発明は分析機器の技術分野に属するガスクロマトグラフに用いられる検出器に関する発明であるから、その進歩性判断における周知技術として用いるには,少なくとも分析機器の技術分野に属する検出器に関する周知技術でなければならない。しかし、審決が周知技術認定の基礎としたのは、画像形成装置及び警報装置の技術分野における周知技術にすぎず、その技術分野は分析機器の技術分野とは関係がないし、分析機器の当業者が画像形成装置又は警報装置に関する技術に着想を求めること自体期待し得ないところである。

② 引用例における課題は、「常に出力が一定(通常は0)となる制御ループをとって」いる場合に,「常に汚れの程度をモニタする手段の出現が要望されて」おり、「汚れチェック機能を持たせた定電流形電子捕獲器を提供すること」にあるが、上記周知技術においては制御ループを採っておらず、常に汚れの程度をモニタする等の必要性は生じないことから、このような課題は存在しない。

③ 引用例においては、定電流形電子捕獲器が「試料」により汚染されることが開示されているが、上記周知技術における課題は「トナー」、「セメント」により汚染されることにあるため、汚染される原因となる物質も全く異なる。  ④ 引用発明においては、課題解決の手段として、周知の解決手段とは全く異なる手段を提供するものであるから、引用発明に上記周知事項を適用することの阻害要因が存在する。

(2)被告の主張
① 本願発明の課題は分析装置において共通するものであって「ガスクロマトグラフ分析装置」特有のものとはいえず、また、その効果も分析装置において一般的なことにすぎず、「ガスクロマトグラフ分析装置」における検出センサ部特有のものではない。なお、分析機器の技術分野においても検出器の特性を補正することは本願出願前に周知であったことを、公報(特開平6-265374号公報)を挙げて主張している。

②、③ 上記周知技術が制御ループを採っていないこと、及び汚染原因物質が異なることについては特に反論していない。

④ 審決が認定した引用発明は、引用例の中で従来技術として開示されている「定電流形電子捕獲器」であって、定電流形電子捕獲器の汚れの程度をモニタすることの解決手段について、何ら開示するものでない。つまり、引用例における「周知の解決手段とは全く異なる手段」についての記載は、審決が認定した引用発明とは全く関連しない部分である。

(3)裁判所の判断
① 審決が周知技術認定の基礎とした公報は複写機や画像形成装置や火災警報装置に関するものであるから、その技術分野は必ずしも一致するものではない。

しかし、いずれの検出装置においても、検出部の汚染等により検出値が経時変化するという課題がある場合に、汚染等がない検出装置の初期状態における検出値を記憶し、検出装置を所定期間又は所定回数使用した後で測定する際の測定値0の状態における検出値と記憶された前記検出値を用いて測定された検出値を補正するという、同種の方法が開示されている。

しかも、その具体的方法は、複写機等や火災報知器といった技術分野に特有の技術的知見に基づくというよりも、画像や煙の濃度を感知するセンサーが電気的に制御されていることに着目し、その検出値の経時変化を電気的なレベルで把握して汚染等による検出値の誤差を補正しようとするものである。

このような上記各公報の内容及び当該補正に係る技術内容に鑑みれば、前記認定に係る汚れの検出及びその補正方法は、検出装置一般における周知の技術であったということができる。  引用発明と上記周知技術とは、検出部の汚染等により検出値が経時変化するという課題において共通するものである。さらに引用例には,定電流形電子捕獲器において、イオン化室の汚れが試料濃度の測定結果に影響を与えることが示されているから、引用発明に周知技術を適用する動機も存在する。

② 検出部の汚染自体は制御ループの採否にかかわらず常に生ずるものであり、上記周知技術には、検出部の汚染等により検出値が経時変化することが示されているのであるから、引用例に接した当業者は、制御ループの存否にかかわらず、周知技術と課題が共通することを認識することができるというべきである。

③ 汚染物質の差異が上記周知技術の技術的意義を左右することを認めるに足りる証拠はない。  ④ 審決が認定した引用発明は、従来技術としての「定電流形電子捕獲器」の基本的な構成であって、引用例が開示する定周波数電子捕獲器への切換えという具体的な課題解決手段をその内容に含むものではないし、そのような手段を必須の前提とするものでもない。
 


5.コメント

上記①において、原告は、本願発明と3つの周知例に係る周知技術との技術分野の相違を主張したが、認められなかった。裁判所は、本願発明の技術分野は各周知技術の技術分野と必ずしも一致しないと認定し、その上で、各周知技術は同種の課題に基づくものであり、その具体的方法も検出装置一般における周知の技術であるとした。

即ち、裁判所は、複写機や画像形成装置,火災警報装置といった各周知例に係る技術分野を検出装置という形で上位概念化したものと考えられる。

出願人が本願発明と周知技術との技術分野の相違を主張する場合、引用された周知例はあくまでも一例に過ぎないということに注意が必要である。

審査官は、周知例に直接記載された技術分野よりもより広い技術分野を想定している可能性があるからである。

特に2つ以上の周知例が引用されており、それらが共通の課題をもつような場合は、各周知例を包含するより広い技術分野を想定し、対応を行う必要があるだろう。

2013/06/27

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