判例研究(水曜会)

HOME» 判例研究(水曜会) »18.【事件】平成22年(行ケ)第10191号-審決取消請求事件-

判例研究(水曜会)

18.【事件】平成22年(行ケ)第10191号-審決取消請求事件-

【関連条文】特許法第29条第2項

1.事件の概要

不服2008-29743号の審決の取り消しを求めた。
 


2.経緯

平成17年 6月10日 分割出願(特願第2005-171326号)
平成19年 7月27日 手続補正
平成20年10月 9日 拒絶査定
平成20年11月 5日 拒絶査定不服審判の請求(不服2008-29743号)
平成22年 5月10日 請求棄却審決
平成22年 5月28日 審決謄本送達
 


3.争点

補正後の発明(以下、本願発明と記す。)が、特許法29条2項により特許を受けることができるか否か。

<請求項1の記載>
長波長と短波長の2つのレーザと,
前記2つのレーザの出力ビームを同軸の光路に導いて重畳させる光学系と,
同軸の光路に重畳した前記2つのレーザの出力ビームを被加工物上に集光する集光レンズとを備え,
前記光学系が,一方のレーザの出力ビームを全反射し他方のレーザの出力ビームを透過させるダイクロイックミラーを備え,
前記被加工物がアルミニウムであり,
前記長波長のレーザが,アルミニウム溶接加工用として用いられているYAGレーザであり,
前記短波長のレーザが,アルミニウムに対する反射率が低い波長域である,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザであるアルミニウム溶接用レーザ加工光学装置

<審決の理由の概要>
本願発明は、引用例1に記載された発明(特開昭62-289390号公報)に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

なお、審決において、引用例2が頒布された日の認定に誤りがあり、実際は、引用例2は出願日の後に頒布されている。この点について訴訟段階では被告も認めている。
 


4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張
① 被告は,理由を差し替えて本件審決の結論に誤りはないと主張するが,本件訴訟においては,本願発明の特許性の是非ではなく,本件審決に至る論点及び内容が妥当か違法かを論ずるべきであり,本件審決で用いた論点以外の論点による反論は,許されない。

② 引用発明1の短波長レーザは単独でアルミニウムの表面を溶かして長波長レーザのアルミニウムに対する吸収率を高め,本願発明の短波長レーザである半導体レーザはアルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまで高めてアルミニウムの吸収率を高めるから,引用発明1と本願発明とでは短波長レーザの作用と効果が異なる。

③ 本件審決が,引用例1の短波長レーザを,アルミニウムを溶融するものであると認定しておきながら,引用発明1が短波長レーザ単独でアルミニウムを溶融するものではないとするのは,引用発明1に対する認定に一貫性がない。

(2)被告の反論
① アルミニウムに対する反射率が低い波長域が0.8μm付近にあることは周知である(乙1,2)という本件審決の認定事項に加え,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザは周知であること(乙3)を併せ考慮すれば,引用発明1において,アルミニウムに対する反射率が低い波長域の短波長レーザとして,0.8μm付近の発光スペクトルをもつ半導体レーザを採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。よって,引用例2の頒布日の認定に誤りがあるものの,相違点2に係る事項を当業者が容易に想到し得たとする本件審決の判断は,結論において誤りはない。

② 本願発明において,短波長である半導体レーザが単独ではアルミニウム表面の温度を溶融温度以下にまでしか高めないものであることは,特許請求の範囲にも本願明細書にも,全く記載がなく,また,それを示唆する記載さえも存在しない。

(3)裁判所の判断
特許法29条2項は,「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が同条1項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたとき」は,特許を受けることができない旨を規定しているのであって,同条1項3号に掲げる刊行物記載の発明すなわち引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,特許出願時において判断すべきはいうまでもないことであるから,本件原出願後に頒布されたものであることについて当事者間に争いがない引用例2に記載された事項を,引用発明1に採用することによって,容易に発明をすることができたと判断した本件審決には,特許法29条2項の適用を誤った違法があることが,明らかである。
 


5.コメント

本件では、審判段階で認定された引用例2の頒布日が誤っていたことが明らかになった。被告は、引用例2に代えて周知技術を引用例1に組み合わせて、本願発明の容易想到性に誤りがないことを主張したが認められなかった。

通常、審決取消訴訟で新たな拒絶理由を主張することは認められないが、容易想到性の判断において、引用例を周知技術で置き換えることさえも認められないと判断された。

裁判所は審判段階の論理プロセスを重視しており、それを少しでも変更するような主張は認められないものと考えられる。審決取消訴訟は審判段階での違法を争うものであるという立場に厳格に則った判決である。

仮に、被告が、審判段階において引用例1と周知技術との組み合わせによって容易想到性を認定し、その周知性を裏付ける根拠として本件の引用例2を引用していたならば、判決によって審決が取り消されることはなかったと考えられる。

2013/06/27

判例研究(水曜会)

HOME

最新情報

事務所概要

業務内容

弁理士紹介

活動報告

商標よもやま話

English

求人情報

朋信のつぶやき

リンク

お問合せ

管理画面