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62.【新規事項】 平成26年(行ケ)第10242号 審決取消請求事件


【事  件】 平成26年(行ケ)第10242号 審決取消請求事件

 

【関連条文】 特許法第17条の2第3項

 

1.事件の概要

 不服2013-22354号の審決の取り消しを求めた。

 

2.経緯

 平成18年 8月24日 実用新案登録出願(実願2006-8029号)

 平成20年 7月 9日 登録(実用新案登録第3143556号)

 平成20年10月10日 特許出願(特願2008-285917号)

 平成23年11月22日 拒絶理由通知

 平成24年 1月27日 手続補正書の提出(本件補正1)

 平成24年10月26日 拒絶理由通知

 平成25年 1月 4日 手続補正書の提出(本件補正2)

 平成25年 7月22日 拒絶査定(本件補正2は却下)

 平成25年10月29日 拒絶査定不服審判の請求

 平成26年 9月16日 請求棄却審決

 平成26年10月 9日 審決謄本送達

 平成26年10月29日 審決取消訴訟提起

 

3.争点

 本件補正2は当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものか否か。

 

4.審決の理由の要旨

 本件補正1及び2は、いずれも当初明細書等に記載された事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に反するから、同法53条1項の規定により本件補正2を却下した本件却下決定は妥当であり、本件補正1による補正後の本願について拒絶をすべきとした本件拒絶査定の判断に誤りはない。

 

<本願出願当初の請求項1>

・シュレッダ-機による幼児の指切断等の事故防止用補助的部品である「シュレッダ-補助器」

・シュレッダ-補助器において,

形状:(1) シュレッダ-機本体に取り付け,

   (2) ラッパ状の形状を有し,

   (3) シュレッダ-補助器の下部は,シュレッダ-機本体の刃部分にシュレッダ-補助器の落ち込み防止の為,プラスチック製の部分が,ストッパ-の役割を果たす形状を有しており,

   (4) シュレッダ-補助器に埋め込まれた金属製爪部分は,ストッパ-底部の外側からストッパ-上部に向かって伸び,ストッパ-と対になり,両側からシュレッダ-機本体を挟み込み,バネ状で,内側へ押し戻そうとする力が働き,

   (5) 金属製爪部分は,上部が,蛇の鎌首状に反り返った形状を有しており,

   (6) 金属製爪部分は蛇の鎌首状から,シュレッダ-補助器の下部へ向かって,ストッパ-底部を包むが如く,カ-ブを描きながら,シュレッダ-補助器内部へ到達する形状を有する,

   (7) 金属製爪部分の一部は,約1cm,シュレッダ-補助器の下部に,埋め込まれた形状を有しており,

   (8) シュレッダ-補助器の横幅は,約35cmであるが,これはメ-カ-や機種により,シュレッダ-機本体の刃部分の横幅が異なる為,約35cmとしたが,A3用紙が余裕を持って縦に入る位の横幅であり,

材質:(9) シュレッダ-補助器の全体はプラスチック製であり,

   (10) シュレッダ-補助器に埋め込まれた爪部分は金属製であり,

色: (11) シュレッダ-補助器の全体の色は,透明であり,

   (12) シュレッダ-補助器に埋め込まれた,金属製爪部分の色は黒であり,

構造又は組み合わせ:(13) 金属製爪部分が,バネ状に,押し戻そうとする力が働くことにより,

          (14) シュレッダ-機本体を,挟み込む状態になり,

          (15) シュレッダ-機本体から,着脱式に,取り付け取り外しが可能,

以上からなるシュレッダ-補助器。

 

<本件補正1>

(8) シュレッダ-補助器の横幅は,メ-カ-や機種により,シュレッダ-機本体の刃部分の横幅が異なる為,大型機では,A3用紙が縦に入る位の横幅ではあるが,刃部分(用紙挿入口)の横幅より若干狭く約28cmとし,(中型機で約18cm,小型機では約14cmとし,)

 

<本件補正2>

(8) シュレッダ-補助器の横幅は,メ-カ-や機種により,シュレッダ-機本体の刃部分の横幅が異なる為,各メ-カ-の各機種の刃部分の横幅に入る様に対応させた横幅の長さとする。

 

5.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張

 本件補正1は,出願当初の技術常識に照らして,当時販売されていた多くのシュレッダー機種の横幅が,各メーカーによっても違いがあり,また,大型機,中型機,小型機によっても違いがあり,大型機の「横幅35cm」の表現だけでは対応しきれないと思ったため,それをより明確にするために,大型機の約28cm,中型機の約18cm,小型機の約14cmとしたものである。

 

(2)被告の反論

 当初明細書等においては,シュレッダー補助器の横幅は,A3用紙が余裕を持って縦に入る位の横幅である約35cmのみが想定されていた。

 これに対し,当初明細書等には,シュレッダー補助器の横幅を大型機で約28cm,中型機で約18cm,小型機で約14cmとすることや,各メーカーの各機種の刃部分の横幅に入るように対応させた横幅の長さとすることは,何ら記載されていないし,これらのことが当該技術分野における技術常識であるとはいえず,技術常識に照らして自明な事項であるということもできない。

 

(3)裁判所の判断

 仮に、本願に係るシュレッダー補助器の横幅がシュレッダー機本体の紙差込口の横幅に満たないものであるとすれば、幼児の指がシュレッダー機本体の当該刃部分に届くことを許し,幼児の指切断等の怪我が生じ得ることとなる。

 また、仮に、シュレッダー補助器の横幅がシュレッダー機本体の紙差込口の横幅を超えた長さであるとすれば,シュレッダー補助器を装着することができず,発明の技術的課題を解決することができないこととなる。

 このような当初明細書等に開示された発明の技術的課題及び作用効果,さらにはこれらに開示されたシュレッダー補助器の具体的な形状等に照らすと,当初明細書等に開示されたシュレッダー補助器の横幅が1つのものに固定されていたと理解するのは困難であり,むしろ,シュレッダー機本体の紙差込口の横幅,すなわち,これに相応する刃部分の横幅に対応するものとすることが想定されていたものと理解すべきことは明らかである。

 よって、本件補正2における補正事項は、いずれも、当初明細書等の記載から自明な事項であるというべきである。

 

2019/02/05

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