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商標よもやま話 6 フランク三浦事件が示唆するもう1つの視点‐「登録後」異議申立制度の見直しの必要性‐


商標よもやま話 6 フランク三浦事件が示唆するもう1つの視点‐「登録後」異議申立制度の見直しの必要性‐

 

フランク三浦事件は、いわゆるパロディー的な商標の登録の是非という実体的な論点とは別に、以下に述べる制度的な問題点を示唆しているように思う。

 

特許庁は、商標「フランク三浦」をすんなりと「登録」しながら(4か月の審査期間)、本家ブランド「フランクミュラー」側からその周知・著名性を根拠とする無効審判請求を受けるや否や、この「登録」をあっさりと「無効」にする審決を下している(4か月の審理期間)。この経緯から推測すると、特許庁としては、フランクミュラーの周知・著名性の事実を「登録前」に把握していれば、フランク三浦を登録することなどなかったのになぁ~ということになる。なお、本日現在、登録の有効性をめぐる争いは知財高裁を経て最高裁に係っている。

 

「登録前」ではなく「登録後」に、登録の有効性をめぐる争いが当事者間で生じる理由の1つは、現行の制度が「登録後」異議申立制度を採用しており、利害関係人は「登録後」でなければ正式な異議申立をすることができないからである(フランク三浦事件は、無効審判請求事件であるが、「登録後」にその有効性を争うという点では同じである。)。特に、有名ブランドではあっても、特定の商品分野において知る人ぞ知るというようなレベルのブランドの場合、フランク三浦事件と同じような経過を辿るおそれがある。「フランクミュラー」は高級かつ有名な時計のブランドのようであるが、筆者には縁のない世界であり、この事件を耳にするまでその存在をつゆ知らなかった。特許庁の審査官も知らなかったおそれがある。知っていたとしても、両商標が非類似であると認定してしまえば、類似を要件とする10号(周知商標の登録の排除)等の条項の適用を検討する必要がない。また、15号(著名性による出所混同)の適用を検討するにはそれなり証拠の収集が必要であるため、利害関係人から一定の証拠の提出がない限り、審査官はその適用に謙抑的にならざるを得ない。

 

確かに、現行制度においても情報提供制度(商標法施行規則第19条)の利用により、周知商標主がその商標の存在を特許庁に知らしめる制度は存在する。しかし、周知性を証明する書証の収集は通常煩雑であり、多大な時間を必要とするため、周知商標主がこの制度を十分に活用するには困難な面がある。また、「登録前」に公告された商標に対して異議申立をすることが一般的である諸外国の周知商標主は、そもそも情報提供制度の活用すら思いつかないであろう。フンラク三浦事件がきっかけどうかは定かではないが、特許庁自身が「情報提供制度」の活用を訴える告知(平成28年4月付)を発するほどであるから、特許庁としても情報提供制度が十分に機能していないと感じているようである。

 

「登録前」であろうが「登録後」であろうが、瑕疵ある登録を排除できればそれで良いのではないか、という訳にはいかないであろう。一旦なされた商標登録という国家による行政処分が軽々と無効にされるということは、商標登録というお墨付きの信頼性を著しく低下させるおそれがある。また、「登録後」の異議・無効の手続きは、行政庁のみならず当事者にとっても、時間的、経済的、その他諸々の負担となる。フランク三浦事件の場合、フランク三浦側にしてみれば、まんまと商標登録というお墨付きを得たと思いきや、その商品の本格的な販売はリスクを伴うことになってしまった。こういう事態になるのであれば、「登録前」に白黒を付けて欲しかったという思いかもしれない。「登録前」であれば、ビジネス上の撤退も容易だからである。一方、本家ブランド「フランクミュラー」側としては、フランク三浦という商標が「登録」されること自体が信じられないという思いかもしれない。

 

ところで、今から20年前の平成8年(1996年)の商標法改正において、異議申立制度が「登録前」から「登録後」に変更されたのは、以下の理由によるとされている(工業所有権法逐条解説の商標法第43条の2)。以下のかっこ内の*は、そのような理由が今日すでに解消しいていることに関する筆者のコメントである。

(1)諸外国と比較して審査期間が長期に及んでいる。(*確かに、筆者の記憶では平成8年当時、出願から登録査定までの審査期間は早くて1年~3年であったように思う。しかし、今日、フランク三浦商標のように僅か4か月で登録査定に至ることは珍しくない。さらには、データベースや検索システムの改善により、機械的な職権審査は今後ますます短期化されることが予想される。したがって、「審査期間が長期・・・」という理由は、今後とも存在しないであろう。)

(2)異議申立てにより特許庁の判断が覆るものは僅かである。(*確かに、4条1項11号のような単純な案件(商標の周知性の度合い等が審査に影響しない案件)については、データベース上の先行商標の情報だけで十分な審査が可能であるため、特許庁の判断が覆ることは今でも僅かである。問題は、周知商標の存在等、審査官が十分な情報を有し得ない案件の取り扱いである。そのような案件は、登録前に当事者間による争いの機会を付与すべきであろう。)

(3)マドリッド協定議定書の枠組に入る場合には、一定期間内の早期審査が余儀なくされる。(*確かに、同議定書の要請により、全ての拒絶理由を出願から一定期間内に発する必要がある。しかし、種々の仕組みを工夫することにより、登録前に公告を行い、異議申立に基づく拒絶理由を一定期間内に追加的に発することも可能であろう。)

 

以上つらつら考えると、そろそろ、「登録前」異議申立制度を復活させる時期に来ているのではないかと思う。世間を騒がせる事件は、そのような事件を生み出す既存の制度や土壌を我々に顧みさせる良い機会でもあると改めて思う今日この頃である。(文責 向口浩二 2016年6月)

2016/06/14

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