HOME» 判例研究(水曜会) »50.【進歩性】平成24年(行ケ)第10370号 審決取消請求事件
判例研究(水曜会)
50.【進歩性】平成24年(行ケ)第10370号 審決取消請求事件
【関連条文】特許法第29条第2項(進歩性)
1.事件の概要
特許無効審決の取り消しを求めた。
2.経緯
平成12年 3月23日 原出願
平成18年 4月12日 分割出願
平成19年 6月22日 特許登録
平成21年 5月15日 無効審判請求(分割要件、進歩性)
平成21年12月21日 審判請求不成立(1次審決)
平成22年 1月29日 訴えの提起
平成23年 1月25日 1次判決(1次審決取消)→平成23年(行ケ)第10034号
平成23年 6月14日 訂正請求
平成23年 9月19日 訂正を容認して審判請求不成立(2次審決)
平成25年 7月18日 2次判決
3.争点
分割要件、進歩性を満たすか否か。
4.1次判決の概要
●本願発明の請求項1(訂正前)
関節部により回転可能に連結されて回転駆動原による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを2組備えたダブルアーム型ロボットにおいて、
前記2組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられると共に、互いに上下に異なる高さでコラムに配置された第1及び第2の支持部材と該第1及び第2の支持部材を上下方向へ移動可能に保持するコラムとからなる移動部材と、
前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え、
前記2組のアームは、複数の関節部を有し、水平多関節型ロボットであり、
前記ハンド部は、前記前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって、前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ、
前記コラムは、前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して、前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに、前記アームの前記基端の関節部は、前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に、前記2組のアームを挟んで配置され、前記ハンド部は、ワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動するものであって、前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記2組のアームの前記基端の関節部の間に位置させるものであることを特徴とするダブルアーム型ロボット。
ダブルアーム型ロボットの構成要素
・2組のアーム→①基板を支持するハンド部
②関節部
・移動部材→①2組のアームを支持する2個の支持部材
②支持部材を上下方向へ移動可能に支持するコラム
・台座部
●1次審決における本件発明1と引用発明との相違点
相違点1(1次判決文6ページ)
①2組のアームが移動部材により上下方向へスライド可能
→引用文献では、2組のアームは、回動するが、スライドはしない。
②ハンド部は、X方向(本件明細書の図2)へ直線移動
→引用文献でも同様に直線移動すると思われるが、明確な記載はない。
相違点2
③関節部は、コラムの旋回半径内に設けられ、
④関節部は、支持部材の突出先端に取り付けられ、
⑤アームが縮んだときに、ワークが2組のアームの間にある
周知例
・周知例1、2、甲14文献
→コラムの旋回半径内に関節部が設けられる構成(③)
・周知例3、4(1次判決文28ページ)
→シングルアーム型ロボット、コラム型の昇降機構、台座の旋回機構(②)
・→周知例5~10(1次判決文31ページ)
縮み位置においてワークをアームの基端の関節部の間に位置させる構成(⑤)
●原告の主張(取消事由2)
・相違点の認定の誤り(1次判決文13ページ)
→「アームが縮んだときに、ワークが2組のアームの間にある」ことは、引用 例の図面を見た当業者には明らか。
・進歩性の判断の誤り
→引用例に周知例1~4のコラム型の昇降機構、台座の旋回機構を組み合わせ るのは容易
●被告の主張
・相違点の認定に誤りはない(1次判決文16ページ)
・引用文献では、2組のアームは、チャンバの全く動かない天井と床に固定されているので、アームが上下にスライドする構成は、想定も示唆もしていない。
よって、組み合わせるのは困難
●裁判所の判断(取消事由2:1次判決27ページ)
相違点1
・相違点1の①
本件発明や引用発明は、いずれも産業用ロボットにおいて普遍的な課題とい うべき「省スペース化や可動範囲の拡大」を目的とする。
また、周知例3にも同様の課題が記載されている。
よって、引用発明に周知例を組み合わせるのに、特別な動機が必要となるものではない。
・相違点1の②
X方向へ直線移動することの技術的意義が明示的に記載されていない。
また、アーム、ワーク、コラムが相互に干渉しないようにX方向へ移動させることは、設計事項にすぎない。
・よって、相違点1は、引用発明に周知例3、4を組み合わせることにより、当 業者にとって容易に想到し得る。
相違点2
・相違点2の⑤
省スペース化の観点から、周知例5~10に記載の「縮み位置においてワー クを2組のアームの基端の関節部の間に位置させる」構成を採用することは
容易。
・相違点2の④
アームとコラムとが干渉しないように、④のように配置することは設計事項
・相違点2の③
省スペース化という課題が引用発明と甲14文献で共通しており、引用発明 に当該周知技術を組み合わせることは容易である。
・よって、相違点2は、引用発明に周知例1、2、5ないし10及び甲14文献
により開示された知見を組み合わせることにより、当業者にとって容易に想到 し得る。
5.2次判決の概要
●本願発明の請求項1(訂正後)
関節部により回転可能に連結されて回転駆動原による回転力を伝達しハンド部に所望の動作をさせるアームを2組備えたダブルアーム型ロボットにおいて、
コラムと当該コラムから前記ハンド部の移動方向と直交するように側方に突出し互いに上下に異なる高さで配置されて前記2組のアームがその基端の関節部を介して取り付けられ、かつ前記コラムの側面を上下方向にスライド移動可能に前記コラムに保持される上側の第1の支持部材及び下側の第2の支持部材とからなる移動部材と、
前記移動部材が取り付けられる旋回可能な台座部とを備え、
前記2組のアームは、複数の関節部を有し、水平多関節型ロボットであり、前記2組のアームのうちの一方のアームの前記基端の関節部は、前記第1の支持部材の移動方向下側の面に取り付けられるとともに、前記2組のアームのうちの他方のアームの前記基端の関節部は、前記第2の支持部材の移動方向上側の面に取り付けられて前記2組のアームが前記第1の支持部材と第2の支持部材との間に配置され、
前記ハンド部は、前記移動部材によって前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲内で上下に移動可能とされ、且つ一方向を向いて前記第1及び第2の支持部材の移動方向及び前記支持部材が前記コラムから延びる方向に関して直交する方向であって、前記アームを伸ばしきった伸長位置と前記アームを折り畳み前記ハンドを引き込んだ縮み位置との間を移動するようになされ、
前記コラムは、前記台座部が旋回するときの前記台座部の旋回中心に関して、前記第1及び第2の支持部材に前記アームの前記基端の関節部の回転中心軸よりも外側を旋回するように配置されるとともに、前記アームの前記基端の関節部は、前記支持部材の前記コラムに取り付けられている側とは反対の自由端である先端部に、前記2組のアームを挟んで配置され、前記ハンド部がワークを載置して前記伸長位置と前記縮み位置の間を移動する際に前記アームの先端と前記ハンド部とが連結するハンド関節部及び前記ワ
ームの前記ハンド関節部側端部の少なくとも一部が前記コラムと前記第1の支持部材と前記第2の支持部材とで囲まれた空間を通過するとともに、前記ハンド部が前記ワークを載置して前記縮み位置に移動したときに前記ワークを前記コラムの上下方向の長さと重なる範囲内で前記第1の支持部材の移動方向下側の面に取り付けられた前記アームの前記基端の関節部と前記第2の支持部材の移動方向上側の面に取り付けられた前記アームの前記基端の関節部との間に位置させるものであることを特徴とするダブルアーム型ロボット。
●2次審決における本件発明1と引用発明との相違点
相違点1:①対向する1対の支持部材の対向面に、2組のアームをそれぞれ
取り付ける構成。→ワークの収納スペースの確保
②移動部材によりアームが上下方向へスライド移動可能
③ハンド部がX方向へ直線移動
相違点2:1次判決の相違点2と同じ
相違点3:2重下線の構成
●審決(判決文10ページ3行目)
周知例に支持部材を複数設けた構成が記載されていないことから、当業者が相違点1に係る構成を容易になし得たものとすることはできない。
●原告の主張(取消事由:進歩性)→2次判決文8ページ
・支持部材を複数設けることは、当業者にとって何ら困難ではなく、また、周知 例6には、3本以上のアームを有するロボットにおいて、第3のアームが第1及 び第2のアームのいずれかに対して上下関係で配置される構成が開示されている。
・相違点1の構成は引用発明に記載されている。引用発明に周知技術(コラム) を組み合わせ、さらに複数の支持部材を設ける際に、敢えて引用発明の構成(① の構成)から変更する必要はないし、むしろ変更すべきではない。
→①の構成は、アームをチャンバの天井と床とに取り付ける引用発明では必然の 構成であるが、引用発明に周知技術のコラムを使用した場合に、①の構成を適用 するには、動機付けが必要とする特許庁の見解に対して、「引用発明の構成から 敢えて変更する必要はない。」と主張している。
●被告の主張
・引用発明は、狭い通路(チャンバ)内に設置するロボットに関する発明であって、引用発明において、上下に移動させる構成を採用することは、引用発明の特徴的な構成を変更することに他ならない。(2次判決文12ページ)
・アームを上下に移動させる移動装置は、何もコラム型だけではない。引用発明の構成では、むしろテレスコピック型を採用する方がよい。よって、引用発明にコラム型の移動装置を適用するには、動機付けが必要(2次判決分11ページ)。
●裁判所の判断
ⅰ:引用発明は、狭い通路(チャンバ)内に設置するものに限定されるものでは
ない(2次判決文18、19ページ)
ⅱ:引用発明には、ハンドが2次元的にしか動作できないものに限らず、「ハン ドがアームに対して昇降する機能や、アーム及びハンド全体が昇降する機能」 を有していてもよい旨が記載されている(引用文献608ページ左下)。
ⅲ:コラム型の昇降装置は周知技術
ⅳ:相違点1の①の構成は、引用発明に記載の構成
ⅰ~ⅳより、引用発明にコラム型の昇降装置を採用することは容易
2015/08/31