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14.【事件】平成21年(行ケ)第10303号-審決取消請求事件-

【関連条文】特許法第17条の2第3項

1.事件の概要

不服2007-18278号の審決の取り消しを求めた。
 


2.経緯

平成15年 6月26日 分割出願
平成19年 1月22日 手続補正
平成19年 5月25日 拒絶査定
平成19年 7月 2日 拒絶査定不服審判請求
平成19年 8月 1日 手続補正
平成19年 8月20日 補正却下
平成19年 8月20日 請求棄却審決
 


3.争点

審判請求後の補正が特許法17条の2第3項(新規事項の追加)に該当するものであるか否か。

<請求項1の記載>
通信機能と、当該通信機能以外の時計機能、電話帳機能、マイクによる音声を電気信号に変換する機能、スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能とを有し、通信機能と通信機能以外の複数の機能に係る表示を行う一つの表示手段と、電源キー、数字キー等を備える入力手段と、音声を電気信号に変換するマイクと、電気信号を音声に変換するスピーカとを有する携帯電話端末であって、
前記入力手段の電源キーを押下すると、前記表示手段を含む各構成部分に電力が供給され、携帯電話端末の制御動作が開始されて、前記通信機能と前記通信機能以外の時計機能、電話帳機能、マイクによる音声を電気信号に変換する機能、スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能が使用可能状態となり、前記入力手段のキー操作により通信機能を停止させる指示が入力されると、当該通信機能を停止させて、前記通信機能以外の時計機能、電話帳機能、マイクによる音声を電気信号に変換する機能、スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能はそのまま動作可能としたことを特徴とする携帯電話端末。
 


4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張

① 従来技術において、「音声を音声電気信号に変換するマイク8」、「音声電気信号を音声に変換するスピーカ9」と記載され、本願発明のマイク及びスピーカには同一の符号が付されている。したがって、本願発明のマイクは、「音声を音声電気信号に変換する」動作を実行するものであり、本願発明のスピーカは、「音声電気信号を音声に変換する」動作を実行するものである。

② 「マイク」及び「スピーカ」の動作原理に基づけば、それらが接続されている制御部が動作可能状態に維持されていれば、「マイク」及び「スピーカ」も動作可能状態に維持されることは当業者であれば当然に理解することである。

(2)被告の主張
① 当初明細書には、「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」、「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」の直接の記載はない。

② 当初明細書には、「マイク」及び「スピーカ」の動作が記載されていないから、通信機能が停止した場合に「マイク」及び「スピーカ」に電源が供給されて動作可能となっていることを読み取ることはできない。

③ 携帯電話端末における通話は、無線通信を用いて行うのであるから「通信機能」を必須としており、通話にマイク及びスピーカの動作は必須であるから、「通信機能」と「通話機能」という表現を用いて両者が技術的に全く異なるものとして扱い、通信機能停止時に「マイク」及び「スピーカ」を動作可能となると結論付ける原告の主張には根拠がない。

(3)裁判所の判断
① 本願発明の実施例としての携帯電話端末は、「マイク8」及び「スピーカ9」を備え、従来の携帯電話端末と同様に「マイク8」は、「音声を音声電気信号に変換する」ものであり、「スピーカ9」は、「電気信号を音声に変換する」ものであると認められる。

② 当初明細書の請求項2に「通信機能とは無線信号の送受信を行う」機能との記載があり、「マイク」及び「スピーカ」の機能は「通信機能」に含まれないと解される。

③ 本願発明の課題、解決手段及び周知技術を総合して考慮すると、本願発明の気板電話端末において通信機能を停止した場合にそのまま使える機能としては、少なくとも、時計機能、電話帳機能、マイクによる音声を電気信号に変換する機能、及びスピーカによる電気信号を音声に変換する機能が含まれるものと解される。
 


5.コメント

裁判所は原告の主張を認め、審判における補正却下を違法であるとして、当該審決を取り消した。裁判所は、「通信機能」と「通話機能」とが停止された後も、「制御部」が電力供給を受けていることを理由に、「制御部」と接続された「マイク」及び「スピーカ」が動作可能であるとしている。

当初明細書には、「通信機能がOFFであるときも通話機能がONである構成」の明示の記載はないが、「通信機能のみをOFFにする」との記載があり、補正が適法であるとの判決には一理あると思われる。

審決が取り消されたことで、本願は再度審理に付されることになる。その際、「通信機能」と「通話機能」とが停止された後も、「マイク」及び「スピーカ」が動作可能であることの技術的意義や作用効果は明細書に記載されていないため、審判において、原告がそれを主張することは困難であると考えられる。

しかし、審査段階において、本願は特許法第29条の2に基づき拒絶されているため、引用文献から見た進歩性は必要とされず、同一性のレベルさえクリアすれば特許査定の可能性がある。

原告はこの点を考慮した結果、技術的意義や作用効果は二の次とし、相違点を作るための補正を行ったのではないかとも考えられる。このような補正に基づき新規性が認められるのか否かについては、今後の成り行きに注目したい。

2013/06/27

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