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41.【事件】平成24年(行ケ)第10056号 -審決取消請求事件-

【関連条文】第29条第2項

1.事件の概要

 不服2010-15996号の審決の取り消しを求めた。
 



2.経緯

 平成12年 2月10日 出願(特願2000-33453)
 平成21年10月23日 第1回手続補正書提出(本願発明)
 平成22年 3月25日 拒絶査定
 平成22年 7月16日 拒絶査定不服審判請求
 平成22年 7月16日 第2回手続補正書提出(本件補正:本願補正発明)
 平成23年 4月21日 審尋回答書提出 
 平成23年11月29日 本件補正を却下し、請求棄却審決
 



3.争点

 (1) 本件補正が平成18年改正前17条の2第4項に違反するかどうか
 (2) 本願補正発明の容易想到性の判断
 (3) 本願発明の容易想到性の判断(拒絶査定と異なる主引用例を引用して判断可能か)
 



4.結論及び理由のポイント

[1]容易想到性の判断の根拠となる引用文献

(1)審査・審理において登場する引用例等
    引用例1:特開平7-213094号
    引用例2:特開平9-247994号
    引用例3:特開昭57-44030号
    引用例4:特開昭60-82096号
    周知例1:特開平7-222456号
    周知例2:特開平10-96250号
    周知例3:特開昭62-211295号

(2)第1回補正時(審査時)における引用文献
    主引例:引用例2  副引例:周知例2、3

(3)第2回補正時(拒絶査定時)における引用文献
    主引例:引用例2  副引例:周知例2、3  周知技術:引用例1

(4)審尋における引用文献
    主引例:引用例3  副引例:引用例4、周知例1  周知技術:周知例2、3

(5)審決における引用文献
    主引例:引用例1  副引例:引用例2~4  周知技術:周知例1~3


[2]原告の主張
(1)引用例1を主引例とし引用例2~4を副引例とする拒絶理由通知を行っていない。主引例が異なれば公知事実が異なり、したがって基本的に拒絶理由が異なる。

しかも、引用例1は、過去に引用例2を主引例とされたときの単なる周知事実を例示するための文献である。したがって、主引例が引用例2から引用例1に変更されることにより、明らかに拒絶の理由は異なっている。

つまり、原告にかかる拒絶の理由に対して意見を述べる機会を与えておらず、法159条で準用する法50条に違反する。

(2)そもそも、主引例を変更したとしても拒絶の理由が変わらないのであれば、つまり、どの文献を出発点としても容易想到性の説明に大差がないのであれば、主引例を変更する必要などない。(換言すれば、引用例2を主引例とする拒絶の理由では拒絶査定が維持できないからこそ主引例を変更して拒絶の理由を組み立て直しているのではないか)

(3)適正手続の保障と特許性判断の結果とは厳密に分けるべきである。
なぜなら、ある出願の審査において結論として特許の可能性がないと判断された場合は、拒絶理由を通知することなくいきなり拒絶査定をすることを許容することになってしまう。



[3]被告の主張
(1)本願発明は、単にそれぞれの機能を有する構成要素が羅列されているだけであり、どの構成要素も特別の結びつきなく独立、並列して特定されているものであるから、これらの構成要素についてそれぞれ開示されている複数の文献があれば、これらを寄せ集めることにより本願発明が成り立つというものである。

したがって、本願発明においては、どの文献を出発点として容易想到の説明をするかによって説明の仕方、順序はそれぞれ変わってくるものの、判断の内容、枠組み自体に変わりはなく、主引例を変更したとしても拒絶の理由が変更されたものではない。


(2)審判請求書において原告は、本願補正発明と引用例2、引用例1に記載された発明とを対比させて一致点及び相違点を詳細に検討している。これを受けて、審判合議体は原告が引用例1を主引例とした拒絶理由の構成をしたものと解釈したが、実質的に拒絶理由の判断枠組みに変化はない。主引例を変更したとしても新たに特段の検討を要するものではない。

[4]裁判所の判断
(1)引用例1を主引例とした場合の対比
「電源(交流電源)」及び「電源に接続されるコンバータ」は、一致点

(2)引用例2を主引例とした場合の対比
「電源(交流電源)」及び「電源に接続されるコンバータ」は、相違点

(3)阻害要因
引用例2に記載された発明は、交流電源を用いた場合の問題点を解決することを課題とするものであるから、直流電源を交流電源に再び戻すことは、一定の阻害要因がある。

(4)主引例の差し替え
引用例2を主引例とすれば交流電源を用いた場合の問題点の解決を課題として考慮しなければならないが、引用例1を主引例とすればその必要はないから、いずれを主引例とするかによって課題が変わり、容易想到性の判断過程にも実質的に差異が生じる。

(5)結論
したがって、主引例の変更は、「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当し、これについて拒絶の理由を通知していないことは法159条で準用する法50条の規定に違反し、かかる手続違背は審決の結論に影響を及ぼす。

ただし、主引例を変更したとしても出願人の防御権を奪うものといえない特段の事情がある場合は、「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当しない。
 



5.コメント

(1)特許庁は、審査から審判までの一連の手続きにおいて、少なくとも一回各引用文献に関して反論の機会を与えていれば、出願人の防御権を奪うものではないとの解釈をとっていたが、容易想到性の判断においては、拒絶理由を組み立てる枠組みに変更があれば、新たに反論の機会が得られることが明確にされた。

このことから、審査段階におけるOAにおいて、論理の詰めが無く引用文献の羅列のみのコメントしか記載されていない場合があるが、この場合は、実施的に有効な反論をする機会を奪われていることを遠慮無く主張できるのではないか。


(2)主引例の変更が、一致点・相違点の変更になるかならないかは、一つの判断目安になる。
 

2013/08/07

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