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判例研究(水曜会)
24.【事件】平成22年(行ケ)第10204号 -審決取消請求事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.事件の概要
不服2008-32100号事件の審決の取り消しを求めた。
2.経緯
平成11年 8月27日 特許出願
平成20年 9月16日 拒絶査定
平成20年12月18日 拒絶査定不服審判の請求
平成22年 2月16日 請求棄却審決
平成22年 2月26日 審決謄本送達
3.審決の理由
本願発明は、特開平9-222122号公報記載の発明に周知技術を適用することにより、容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項により、特許を受けることができない。
<補正後の請求項1の記載>
自動車の水ポンプと共に用いるための回転軸受け組立体であって、リングを通って軸方向に延びるシャフトまたはスピンドルを備え、
リングの内側周縁部とリング内のスピンドルの外側周縁領域とには、一対の間隔を開けて相補的に離れたボール接触軌道が設けられており、この軌道はそれと転がり接触している列状のボールを含んでおり、
第1回転軸受けを構成するボール及び軌道の1列は、ボールが、互いに接触するように必要数が配置されており、
第2回転軸受けを構成するボール及び軌道の他列は、ボールが、保持器で間隔を開けて離されていることを特徴とする回転軸受け組立体。
<引用発明(刊行物1)>
自動車用エンジンの冷却水を循環させる為のウォータポンプに組み込んだ状態で使用するウォータポンプ用複列玉軸受であって、
円筒形の外輪12を通って軸方向に延びる回転軸3を備え、
外輪12の内側周縁部と外輪12内の回転軸3の外側周縁領域とには、一対の間隔を空けて相補的に離れた第一の外輪軌道10b、第二の外輪軌道11、第一の内輪軌道13、第二の内輪軌道14が設けられており、この軌道はそれと転がり接触している列状の玉15、15を含んでおり、 玉15、第一外輪軌道10b、及び第一内輪軌道13で構成される第1の回転軸受の玉15の数は、玉15、第二の外輪軌道11、及び第二の内輪軌道14で構成される第2の回転軸受の玉15の数より多く、
第1の回転軸受及び第2の回転軸受は、玉15が、保持器16で間隔を空けて離されているウォータポンプ用複列玉軸受。
<相違点>
「第1回転軸受け」について、本願発明は、「第1回転軸受を構成するボール及び軌道の1列は、ボールが、互いに接触するように必要数が配置されて」いるのに対して、引用発明は、「第1の回転軸受の玉15の数」は「第2の回転軸受の玉15の数」より多いものの、「第1の回転軸受」は、「玉15が、保持器16で間隔を空けて離されている」点
*なお、「総玉軸受」は周知技術
4.結論及び理由のポイント
原告主張
・取消事由1:総玉軸受をウォータポンプに使用することに阻害事由がある
周知技術の総玉軸受には短所がある。
→ウォータポンプに総玉軸受を使用することは周知乃至当業者に自明で あったとは言えない。
・取消事由2:引用発明よりも優れた効果(本願発明の段落0014)がある。
→進歩性がある
被告(特許庁)の反論
・周知技術に短所があっても、直ちに適用できないということはない。
・本願発明の効果は、当業者が予測しうる程度のもの
→総玉軸受を用いると、多くの玉を配置することができる。玉の個数が増えると、1個当たりの玉の負荷が減り、当然寿命が延びる。
<裁判所の判断>
特許庁の反論を採用
5.コメント
原告は、総玉軸受をウォータポンプに使用することには阻害要因があると主張したが認められなかった。裁判所は、周知技術に短所があっても直ちに適用できないということにはならないという被告の主張を採用している。
阻害要因とは、複数の発明を組み合わせることを阻害するものであるため、単に一方の発明に欠点があるというだけでは足りず、少なくともその組み合わせによって、発明が破綻するような関係にあることが必要であると考えられる。
拒絶理由通知に対する応答において、各引用文献を組み合わせることの困難性を主張することがあるが、一方の発明の短所だけを強調して阻害要因を主張するような論法に陥らないように注意が必要である。