判例研究(水曜会)

HOME» 判例研究(水曜会) »39.【事件】平成23年(行ケ)第10316号 -審決取消請求事件-

判例研究(水曜会)

39.【事件】平成23年(行ケ)第10316号 -審決取消請求事件-

【関連条文】第29条第2項

1.事件の概要

 不服2009-26046号の審決の取り消しを求めた。
 



2.経緯

 平成15年12月22日 出願(特願2004-79597号)
 平成21年 9月11日 拒絶査定
 平成21年12月28日 拒絶査定不服審判(不服2009-26046号)
 平成23年 7月29日 拒絶審決
 



3.争点

 本願発明が進歩性を有するか。
 



4.本願発明の内容

Ⅰ 内容
半導体装置を金型中に載置して、該金型と該半導体との間に供給した硬化性シリコーン組成物を圧縮成形することによりシリコーン硬化物で封止した半導体装置を製造する方法であって、
前記硬化性シリコーン組成物が、

(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン
(C)白金系触媒
(D)充填剤

から少なくともなり、前記(A)成分が、
式:RSiO3/2(式中、Rは一価炭化水素基)で示されるシロキサン単位
および/または
式:SiO4/2で示されるシロキサン単位を有するか、
前記(B)の成分が、

式:R’SiO3/2(式中、R’は脂肪族不飽和炭素-炭素結合を有さない一価炭化水素基または水素原子)で示されるシロキサン単位
および/または

式:SiO4/2で示されるシロキサン単位を有するか、
または前記(A)と前記(B)成分のいずれもが前記シロキサン単位を有することを特徴とする、半導体装置の製造方法

Ⅱ 解説
・「半導体装置を金型中に載置して、該金型と該半導体との間に供給した硬化性樹脂を圧縮成形することによりシリコーン硬化物で封止した半導体装置を製造する方法であって、」は、本願発明に記載されている従来技術(→引用例1でもある)。

・本願発明は、硬化性樹脂として、(A)~(D)を少なくとも有し、オルガノポリシロキサン中にT単位やQ単位シロキサンが含まれることに特徴がある。

・本願の硬化性シリコーン組成物は、艶消し性に優れた充填剤(接着剤)として公知(引例2等)である。
 



5.審決の判断

本願発明は、引用発明並びに引用例2、引用例3及び甲4文献に示されている周知技術から、当業者が容易に発明をすることがでる。

・引用例1と本願発明との相違点
引用例1では、封止材として硬化性樹脂が用いられているのに対し、本願発明では、上記硬化性シリコーン樹脂が用いられている。

・引用例2や引用例3や甲4文献には、本願発明と同構成の硬化性シリコーン組成物が開示されている。
 



6.結論及び理由のポイント

・原告の主張
①引用例2、引用例3、甲4文献記載の硬化性シリコーン組成物は、本願発明のように金型内での圧縮成形による半導体装置の封止に使用される樹脂ではなく、

②また、引用例2、引用例3及び甲4文献記載の硬化性シリコーン組成物は、本願発明の硬化性シリコーン組成物とは使用目的が異なり、目的達成のために採用される手段及び得られる効果が異なる。  

したがって、引用例2、引用例3、甲4文献記載の硬化性シリコーン組成物を引用発明の樹脂50として使用することにより本願発明に想到することは、当業者が容易になし得ない。


・被告の反論
(1)
引用例2には、本願発明の硬化性シリコーン組成物と同構成の硬化性シリコーン組成物が、LED表示装置の防水処理のための充填剤や接着剤に使用されることが記載されている。LEDは半導体であり、LED表示装置は半導体装置である。よって、引用発明と引用例2に記載された技術手段とは密接に関連する。

また、引用例2、引用例3、甲4文献記載の技術手段とは、半導体装置を封止して保護する組成物である点において密接に関連し、シリコン系樹脂により半導体装置を封止して保護することは周知慣用の技術手段であるから、半導体を封止するために用いられる引用例2、引用例3、甲4文献記載のシリコーン組成物を、半導体を封止するために用いられる引用発明記載の樹脂として使用することは、当業者が容易になし得る。

(2)
本願発明の特徴は、オルガノポリシロキサン中にT単位またはQ単位シロキサンが含まれていることにあり、この特徴による効果を確認するのであれば、T単位及びQ単位シロキサン以外の成分や実験条件(成形温度等)を合わせて比較する必要があるが、実験データは、そのようにされていない。よって、本願発明の特徴構成によって、明細書記載効果が奏されるか不明である。


・裁判所の判断(取消事由2)
(1) 容易想到性について
引用例2における硬化性シリコーン組成物はLED表示装置等の防水処理のための充填剤や接着剤として使用するものであり、半導体装置の封止用樹脂とは、使用目的・使用態様を異にする。また、引用文献2には、この硬化性シリコーン組成物を半導体装置の樹脂封止に使用するという記載も示唆もない。よって、引用発明における封止用樹脂として引用例2に開示された硬化性シリコーン組成物を使用することを、容易になし得るとはいえない。

(2)発明の効果について
 被告(特許庁)は、本願発明の効果を確認することはできないとの主張もしている。しかし、被告の上記主張は、容易想到性に関する審決の判断の当否に影響を与える主張ではないから、その主張自体失当である。
 



7.コメント

(1)硬化性樹脂で半導体装置を保護するという点で引用発明の技術分野と引用例2の技術分野とは、かなり近く、また、当業者であれば、封止に用いる硬化性樹脂を充填剤から選択するであろうと推測できる。

しかしながら、推測できるだけでは不足であり、容易想到とするには動機付けが必要である、という従来路線に沿った判決であると思われる。

本事件は、主引例+周知技術の案件であり、周知技術であっても動機付けとなる記載・示唆が必要な判例として使える。

発明の効果についての裁判所の判断は、発明の効果の有無と容易想到性とは関係がないと言っているようにも読める。あるいは、発明の効果については審決で言及されていなかったため、判断する必要がないという意図であろうか。


(2)発明の効果は、容易想到性に関する審決の判断の当否に影響を与えないと判事している。審査官が効果の有無を進歩性の判断材料にした場合の反論に使える。
 

2013/08/07

判例研究(水曜会)

HOME

最新情報

事務所概要

業務内容

弁理士紹介

活動報告

商標よもやま話

English

求人情報

朋信のつぶやき

リンク

お問合せ

管理画面