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59.【進歩性】 平成25年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件


【事  件】 平成25年(行ケ)第10234号 審決取消請求事件

【関連条文】 特許法第29条第2項(進歩性)

 

1.事件の概要

 不服2011-15379号の審決の取り消しを求めた。

 

2.経緯

 平成15年 1月13日 出願(特願2003-588004号)

 平成23年 3月11日 拒絶査定

 平成23年 7月15日 拒絶査定不服審判の請求

                         手続補正書の提出

 平成25年 2月20日 手続補正書の提出

 平成25年 3月29日 請求棄却審決

 平成25年 7月15日 審決取消訴訟提起

 

3.争点

 刊行物1(特開2001―130904号公報)に記載された発明に刊行物3(特開平10-149760号公報)に記載された発明を適用して、本願発明の相違点1に係る構成を想到するのは当業者にとって容易か否か。

 

4.審決の理由

 本願発明は,刊行物1発明(特開2001-130904号公報に記載された発明),並びに刊行物3発明(国際公開第02/27844号[刊行物2]及び特開平10-149760号公報[刊行物3]に記載された発明)に基づいて,当業者が容易に発明することができたというものである。

 

<本願発明:請求項1に係る発明>

 基板製品を製造する方法であって、

 基板を提供するステップと、

 該基板の表面にカーボンナノチューブの懸濁液を塗布し、前記基板の表面にカーボンナノチューブ層を形成するステップであって、該カーボンナノチューブ層は複数のカーボンナノチューブが相互が絡み合う不織布状態であり、且つ、該カーボンナノチューブ層は実質的に無定形炭素を含まない、ステップと、

 前記カーボンナノチューブの不織布状態から実質的に全ての溶剤を除去するステップと、

 所定のパターンに従って前記カーボンナノチューブ層の一部を選択的に除去し、製品を製造するステップと、を含むことを特徴とする方法。

 

<引用例1発明の内容>

 基板上にパターン形成されたカーボンナノチューブ薄膜を形成する方法であって、

 基板を準備する工程と、

 基板上にパターン形成材料からなるパターンを形成する工程と、

 基板上に、カーボンナノチューブの懸濁液をスプレー塗布し、溶媒を蒸発させることにより、カーボンナノチューブを堆積させる工程と、

 非パターン形成領域上に位置するカーボンナノチューブを除去する工程と、を含む方法。

 

<一致点>

 「基板製品を製造する方法であって、

 基板を提供するステップと、

 該基板の表面にカーボンナノチューブの懸濁液を塗布し、前記基板の表面にカーボンナノチューブ層を形成するステップであって、該カーボンナノチューブ層は複数のカーボンナノチューブが相互に絡み合う不織布状態であるステップと、

 前記カーボンナノチューブの不織布状態から溶剤を除去するステップと、

 カーボンナノチューブ層のパターニングを行い、製品を製造するステップと、を含む方法。」である点。

 

<相違点1>

  「カーボンナノチューブ層のパターニングを、本願発明においては、基板上にカーボンナノチューブを形成した後に、「所定のパターンに従って、前記カーボンナノチューブ層の一部を選択的に除去し」て行うのに対し、刊行物1発明においては、「基板上にパターン形成材料からなるパターンを形成する工程」及び「非パターン形成領域上に位置するカーボンナノチューブを除去する工程」によって行う点。

 

<相違点2>

  本願発明においては、「カーボンナノチューブ層は実質的に無定型炭素を含まない」という限定及び「実質的に全ての溶剤を除去する」という限定がされているのに対し、引用発明においては、それら限定がされていない点。

 

5.原告の主張

①取消事由1(一致点の認定の誤り)について

イ)加熱工程の有無(無定型炭素の実質的な含有の有無)で相違する。

刊行物1発明では、カーボンナノチューブが熱によるストレスにさらされ、無定形炭素が形成される。これに対し、本願発明では、実質的に無定形炭素を含まないという限定要素を含んでおり、当業者は、加熱せずに溶剤を蒸発させて、カーボンナノチューブ層を形成するステップであると解釈する。

ロ)溶剤の完全な除去の有無で相違する。

刊行物1発明では、カーボンナノチューブ層から実質的に全ての溶剤を除去することができない。これに対し、本願発明では、微量の残留溶剤を実質的に全て除去する。

ハ)製造後のカーボンナノチューブ層が固着性か不織布状態かで相違する。

刊行物1発明では、固着性のカーボンナノチューブを残すのに対し、本願発明では、不織布状態のカーボンナノチューブ層でパターン化された製品を製造するものである。

②取消事由2(相違点の判断の誤り)について

イ)相違点1について

刊行物1発明の「基板上にパターン形成材料からなるパターンを形成する工程」及び「非パターン形成領域上に位置するカーボンナノチューブを除去する工程」を、刊行物3発明の「カーボンナノチューブ層の形成後にカーボンナノチューブ層をリソグラフィ技術でパターニングするという方法」に置き換えると、固着性のカーボンナノチューブ層が形成されなくなる。固着性のパターン形成されたカーボンナノチューブ薄膜の作製という目的が実現できなくなるから、刊行物1発明と刊行物3発明の組合せには、阻害要因が存在する。

ロ)相違点2について

無定形炭素や溶媒等の夾雑物を含まないことが好ましいことは、当業者にとって明らかではない。また、刊行物1発明は、夾雑物を除去することについて配慮しておらず、刊行物3発明は、カーボンナノチューブ層が夾雑物を含まないことを示唆するものでもない。

      

6.被告の反論

①取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し

イ)加熱工程の有無(無定型炭素の実質的な含有の有無)に対し

刊行物1発明において加熱が必須であるとの解釈はできない。また、本願発明についても、「加熱せずに」という限定はされておらず、加熱することを排除するものでもない。なお、刊行物1発明において、無定形炭素が形成されるということはできない。

ロ)溶剤の完全な除去の有無に対し

審決は、「実質的に全ての」溶剤を除去するという事項まで含めて一致点と認定したわけではない。

ハ)カーボンナノチューブ層が固着性か不織布状態かに対し

刊行物1発明において、基板に直接に固着していないナノチューブが、固着ナノチューブと不織布状態を形成した状態で、パターン形成領域上に存在すると理解される。

②取消事由2(相違点の判断の誤り)に対し

イ)相違点1に対し

刊行物1発明及び刊行物3発明は共に、基板表面の状態やナノチューブとの接触状態を選択すること等により基板とカーボンナノチューブとの固着性を確保する必要性は認識されており、具体的な固着強度は当業者が適宜に設定する設計的事項であるというべきである。したがって、刊行物1発明に刊行物3発明を適用することについて、阻害要因はない。

ロ)相違点2について

刊行物1発明では、カーボンナノチューブの分解温度より十分に低い温度でアニールすることが想定されており、アニール工程で無定形炭素が生成することを前提として原告の主張は根拠がなく失当である。また、予め精製したカーボンナノチューブを用いることで、実質的に無定形炭素を含まないカーボンナノチューブ層とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。さらに、溶剤を含有する懸濁液を塗布して形成した層から、実質的に全ての溶剤を除去することは、当業者が普通に想到し得ることである。

    

7.裁判所の判断

原告の取消事由2相違点1には理由があり、審決にはこれを取り消すべき違法がある。

①取消事由1(一致点の認定の誤り)について

イ)加熱工程の有無について

刊行物1発明において常に加熱することが要求されているわけではない。したがって、刊行物1発明が基板を加熱することを前提とする原告の主張は、その前提を欠き、理由がない。

ロ)溶剤の完全な除去の有無について

審決は、溶剤の除去の程度を含めて一致点として認定したわけではない。溶剤の除去の程度については、審決は相違点2という形で認定しているから、審決に一致点の認定の誤りはなく、これによる相違点の看過もない。 したがって、原告の主張は理由がない。

ハ)カーボンナノチューブ層が固着性か不織布状態かについて

刊行物1発明において、パターン形成材料に固着したカーボンナノチューブが不織布状態ではないということはできない。また、パターン形成材料と直接固着していないカーボンナノチューブが全て除去されるとも認められない。したがって、刊行物1発明の製造後のカーボンナノチューブ層も本願発明と同様に不織布状態であって、刊行物1発明においても不織布状態のカーボンナノチューブを選択的に除去することができるため、相違点の看過はなく、原告の主張は理由がない。

②相違点の判断の誤り

イ)相違点1について

刊行物1発明は、ナノチューブ薄膜は固着性が悪いため、固着性を確保することを課題とするものである。このため、刊行物1発明におけるパターニングの方法については、刊行物1発明と同程度の固着性を確保できなければ、他のパターニングの方法に置き換えることはできない。

そして、刊行物3発明のパターニング方法においてカーボンナノチューブの固着性について特段の配慮はされていないため、カーボンナノチューブ層が支持基板に対して、いかなる程度の固着性が確保されるかは不明である。

よって、刊行物1発明に刊行物3発明を適用することには阻害要因があるため、刊行物1発明に刊行物3発明を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることを当業者が容易に想到し得るとした審決の判断には誤りがある。

 

2018/11/22

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