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19.【事件】平成22年(行ケ)第10187号-審決取消請求事件-

【関連条文】特許法第29条第2項

1.事件の概要

不服2009-5363号の審決の取り消しを求めた。
 


2.経緯

平成15年 4月24日 特許出願(特願第2003-120332号)
平成21年 2月10日 拒絶査定
平成21年 3月12日 拒絶査定不服審判の請求(不服2009-5363号)
平成21年 4月 8日 手続補正
平成22年 4月28日 請求棄却審決
平成22年 5月11日 審決謄本送達
 


3.審決の内容

特許出願の際に独立して特許を受けることができない(第126条第5項)から、補正を却下して拒絶査定を維持する。
 


4.争点

補正後の発明(以下、本願発明と記す。)が、特許法29条2項により特許を受けることができるか否か。

<補正後の請求項1の記載>
流体輸送管の途中に接続される一対の可撓継手部から成る伸縮可撓管の移動規制装置において、  前記一対の継手部は、それぞれの外周に設けられた取付片を有し、互いに摺動可能且つ密封可能に支持され、前記両継手部間にはタイロッドが周方向に前記取付片を介して複数架橋され、両取付片のそれぞれ内外に配設した一対の係合部材により前記タイロッドが取付片間に固定されるものであって、
 
前記取付片の外側に配設した一方の係合部材は、前記タイロッド端部のネジ部に螺着され、六角ナットと共に重ねて設けられる球面ナットから成るダブルナットで構成され、前記球面ナットと前記取付片との間に球面座金を介在させ、互いの凹凸球面部で摺動させると共に、前記取付片の内側に配設した他方の係合部材は、前記タイロッド端部のネジ部に螺挿されるナットで構成され、前記流体輸送管に対して圧縮方向に、かつ前記タイロッドを変形させる異常荷重が作用したとき前記ナットのネジ部の変形または破壊により前記異常荷重を吸収することを特徴とする伸縮可撓管の移動規制装置。

流体輸送管:水道管、ガス管、プラント用配管
異常荷重:地震、地盤沈下により生じる荷重
特徴構成:ダブルナットと共に取付片を挟んでタイロッドを固定し、異常荷重が作用したときに変形または破壊されるナットを用いる。

作用効果:一対の可撓継手部が近づく向き(圧縮方向)の異常荷重が作用したときは、ナットが変形または破壊されることによりタイロッドの破壊が防止される(段落0020)。

参考までに、一対の可撓継手部が離れる向きの異常荷重が作用したときは、タイロッドが延びることによりタイロッドの破壊が防止される(段落0027)。

<引用発明(刊行物1)>
相対移動可能に連結されている筒状体(3又は2、3)同士の相対移動を阻止する阻止手段(B)が設けられ、
前記阻止手段に、前記筒状体同士を相対移動させようとする外力で破壊可能な脆弱部(C)が設けられ、
前記脆弱部の破壊で、前記阻止手段による相対移動の阻止状態が解除される管継手であって、前記脆弱部を補強する補強手段(D)が、当該脆弱部を補強している補強状態から、当該脆弱部の補強状態を解除する補強解除状態に切換操作可能に設けられている管継手。

原告主張
・取消事由3
引用発明の脆弱部はタイロッドを破壊することを目的として設けられているのに対し、本願発明の変形又は破壊され得るナットはタイロッドの破壊を防止するために設けられており、引用発明と本願発明とでは目的が相違する。一対の係合部を脆弱部とすることは記載されていない。

取消事由3に対する被告の主張
①地震や地盤沈下等において変形や破壊を引き起こすような大きな圧縮力が管継手に作用するとの課題は周知である(判決文P17、4行目)。

②引用発明において、圧縮力が作用することに着目することは単なる設計事項(判決文P17、19行目)。

③低強度ナットを用いて固着手段の強度を相対的に低くしておくことは周知の技術

④移動規制装置に特化してナットの構成やナットとタイロッドとの関連構成を工夫したものではないから、低強度ナットを一対のナットの一方に用いることに当業者が困難を要する事情もない(判決文P18、4行目)。

①~④の通り、引用発明において、上記周知の技術を適用する動機付けがあったということができるから、引用発明の2個のナットのうち、圧縮力が作用する側の通常のナットに代えて、刊行物2に記載された合成樹脂製の締結ナットを適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

<裁判所の判断>
・結論
取付片の内側に配設した係合部材であるナットに代えて、刊行物2に記載の発明における低強度の締結ナットを採用することにより、本願発明の構成に想到することは、当業者において容易であったとは言えない(判決文P21)。

・理由
引用発明:タイロッド自体を破壊させることによって、配管の相互移動を自由にさせる発明
本願発明:タイロッドが破損しないようにすることを解決課題とするもの
引用発明と本願発明とは、発明の解決課題の設定及び解決手段において、技術思想を異にする。ロッド自体を破壊させる技術思想と相反する目的で脆弱部を設ける技術的事項の開示はないと解するのが合理的(判決文P29)。
 


5.コメント

地震等が発生したときにロッドを壊して配管を保護する引用発明に、ロッドを保護する構成を付加することは合理的ではないということにより、引用発明への周知技術の適用の困難性が認められた。

この判決において、裁判所は、異なる発明を理由なく組み合わせることは、当業者にとっても容易でないとの立場を示していると考えられる。

特に、判決文の「特許法29条2項への該当性を肯定するためには,先行技術から出発して当該発明の相違点に係る構成に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の相違点に係る構成に到達するためにしたはずであるという程度の示唆等の存在していたことが必要であるというべき・・」の部分からは、裁判所の容易想到性に対する考え方が読み取れる。

この一文の意味するところが、いわゆる「動機付け」と同じものなのかについては、更なる検討が必要である。

2013/06/27

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