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判例研究(水曜会)
29.【事件】平成23年(行ケ)第10022号 -審決取消請求事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.事件の概要
不服2007-34188号事件の審決の取り消しを求めた。
2.経緯
平成15年 2月28日 特許出願
平成19年11月19日 拒絶査定
平成20年 1月18日 拒絶査定不服審判の請求及び補正
平成22年12月14日 請求は成り立たない旨の審決
3.争点
引例1における本願発明との相違点を引例2に記載の構成に置き換えることが容易であるか否か
・補正後の本願発明の請求項1:判決文3頁参照
・引例1:特開平11-29110号公報参照
・引例2:特開平9-277442号公報参照
4.引例1との相違点(相違点自体については争いはない。)
・本願発明
『高周波』誘導加熱により熱を発する『蒸着フィルムの基材フィルムに設けられた金属製導電材料からな』る『金属蒸着層』
・引用文献1
誘導加熱により熱を発する『アルミ箔層』
5.審決の内容
引例1のアルミ箔層と、引例2の金属蒸着フィルムとは、共に、流動性食品等の包装容器用積層体の分野において、誘導加熱による熱を発生させる導電性材料であり、そこで発生させた熱により熱可塑性樹脂を溶融させヒートシールさせるためのものである点で共通するから、引例1における『アルミ箔層』に代えて、ヒートシール性に優れたものとするように、引例2の『金属蒸着フィルム』を適用することは当業者が容易に想到し得たものである。
6.原告の主張
要点:①引例2の『金属蒸着フィルム』は、誘導加熱に使用するものではない。
②誘導加熱に金属蒸着層を用いることが包装容器の技術分野における技術常識であることが立証されていない。
7.裁判所の判断
(1)本文(34頁後半)
①引例1において、アルミ箔層に代えて他の材料を使用することに関する記載や示唆を見い出すことはできない。
②引例2には、金属蒸着フィルムに渦電流を流すことや、誘導加熱による熱でシールすることは記載されていない。
③よって、引例1のアルミ箔層に代えて金属蒸着フィルムを適用することについては、何ら動機付けが存在しない。
④よって、審決は誤り。
(2)補足的説明(35頁)
①「しかし、本願前に、例えどのような導電性層であっても必ず高周波誘導加熱により発熱する発熱層とすることができるといった技術常識が存在していたと認めるに足りる証拠はない。」(備考)
②また、「乙1及び乙2文献では、実施例において金属箔が採用されており、金属箔よりも金属蒸着膜を用いることを積極的に動機付ける記載はないし、乙3文献には、発熱包材の場合に金属蒸着膜が最適であると考えられることが記載されているが、包装材料のシールに関しては記載されていない。」
③更に、「阻害事由があるというべきである。」
「したがって、乙1文献ないし乙3文献の記載を考慮しても、引用例2に記載された導電性を有する金属蒸着膜が、引用発明1のアルミ箔層と置換すべき材料であると当業者が容易に想到するとは考えられないと言うべきである。」
8.コメント
(1)「補足的説明」からは、審査官が引例1に引例2を適用する際に、動機付けとして他の文献の記載を考慮することが可能であると読める。
→乙1~乙3文献は技術常識を認定するためのものであるので、技術常識なら考慮してもよいということだと解釈する。
(2)「補足的説明」には、「本願前に、例えどのような導電性層であっても必ず高周波誘導加熱により発熱する発熱層とすることができるといった技術常識が存在していたと認めるに足りる証拠はない。」と記載されている。
「必ず」とあることから、「技術常識」と認定するためには、使用できるであろうという程度では足りず、必ず使用できるということを裏付ける文献(証拠)が必要であると解釈する。
この記載では、裁判所は技術常識の認定を厳格に行っている。しかし、必ず導電性層を発熱層とすることができなかったとしても、そうすることができるであろうことの予測性があれば、当業者がそれを行うことは容易とも思われる。
本願発明の進歩性との関係において、裁判所が技術常識の扱いをどのように考えているのかについてはさらなる検討を行いたい。