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35.【事件】平成23年(行ケ)第10181号 -審決取消請求事件-

【関連条文】第29条第2項

1.事件の概要

 不服2009-13524号の審決の取り消しを求めた。
 



2.経緯

 不服2009-13524号の審決の取り消しを求めた。
 平成16年11月30日      出願(特願2004-347104:貯湯式給湯装置)
 平成21年 4月22日      拒絶査定
 平成21年 7月28日      拒絶査定不服審判請求
 平成23年 3月11日      手続補正書提出
 平成24年 4月25日      請求棄却審決
 



3.争点

引用文献1に記載された発明(引用発明)と本願発明との相違点に関する容易想到性 の判断ほか。
 



4.本願発明及び引用発明の内容・相違点

[1]本願発明(補正後の請求項1に係る発明)

(1)構成
給湯用水を蓄える貯湯タンクと、

前記貯湯タンクに設けられた吸入口から流出した給湯用水を前記貯湯タンクの上部に設けられた吐出口を介して前記貯湯タンク内に流入させるように給湯用水を循環させる給湯用水循環回路と、

前記給湯用水循環回路に設けられ、前記吸入口から流出した給湯用水を加熱し沸き上げると共に制御手段で制御されるヒートポンプユニットと、

前記貯湯タンクに縦方向に間隔を空けて設けられ、前記貯湯タンク内の給湯用水の各水位レベルでの温度情報を前記制御手段に出力する複数の水位サーミスタと、

集熱媒体を太陽熱で加熱する太陽熱集熱器と、

前記貯湯タンク内の下方に設けられ、前記太陽熱集熱器で熱せられた前記集熱媒体により前記貯湯タンク内の給湯用水を加熱する熱交換機と、

前記集熱媒体を前記太陽熱集熱器と前記熱交換器に循環させる集熱器循環回路と、を有する貯湯式給湯装置において、

前記吐出口は、
前記熱交換器が配設される部位よりも上方となる部位に設けられており、

前記制御手段は、
給湯に用いられる熱量に応じて前記ヒートポンプユニットを制御し、且つ

前記制御手段は、
前記貯湯タンク内に蓄えられた給湯用水の使用前に予め加熱しておく蓄熱運転時に、給湯用必要熱量から前記太陽熱集熱器で得られる集熱熱量を減じた必要沸き上げ熱量に応じた量の高温の給湯用水が前記貯湯タンクの上部に設けられた前記吐出口から流入して貯湯されるように、前記各水位サーミスタからの温度情報に基づいて前記ヒートポンプユニットを蓄熱運転し、

前記貯湯タンクの上方に貯湯される高温の湯と前記貯湯タンクの下方に存在する湯との間に温度差が生じるように沸き上げることを特徴とする貯湯式給湯装置。

(2)作用効果
太陽熱により集熱(集熱熱量)し、ヒートポンプユニットで蓄熱(必要沸き上げ熱量)する。給湯用必要熱量は、集熱熱量と必要沸き上げ熱量との和であるから、必要沸き上げ熱量は、給湯用必要熱量から集熱熱量を減じたものである。集熱熱量を太陽熱から効率よく得るので、必要沸き上げ熱量を得るための蓄熱運転の効率が向上する。つまり、電気料金の安い夜間を利用すれば、安く短時間の蓄熱運転で済む。


[2]引用発明と本願発明との対比(審決)
(1)一致点
・貯湯タンク(貯湯タンク20)、
・給湯用水循環回路(流通路23)、
・給湯用水循環回路(流通路23)、
・ヒートポンプユニット(ヒートポンプ40)、
・太陽熱集熱器(太陽熱集熱器30)、
・熱交換機(放熱器31)
・集熱器循環回路(往路32及ぶ復路33)
・給湯用水の吐出口が熱交換器が配設される部位よりも上方となる部位である
・貯湯タンクの上方の湯と下方の湯との間に温度差を設けて沸き上げる

(2)相違点
① 本願発明は複数の水位サーミスタを備えているのに対し、引用発明はそれらを備えていない。
② 本願発明は制御手段を備えているのに対し、引用発明はそれを備えていない。

(3)引用文献2に記載された発明
・給湯用水を蓄えるタンク1
・タンク内の給湯用水を加熱し沸き上げる、制御部で制御される電気ヒータ2,9
・タンク内の各水位レベルでの温度情報を検出するセンサX1~X6
・太陽熱コレクタ
・電気ヒータを制御する制御部

タンク内に蓄えられた給湯用水の使用前に予め加熱しておく蓄熱運転時に、給湯に必要な総熱量から太陽熱コレクタで得られる熱量を減じた電熱量に相当する熱湯がタンクに貯湯されるように各センサX1 ~X6からの温度情報に基づいて電気ヒータを制御

(4)論理付け
引用発明に引用文献2に記載された各センサX1 ~X6及び制御部を適用することにより本願発明が容易に構成される。
 



5.結論及び理由のポイント

[1]原告の主張
(1)本願発明は部分沸き上げ方式であるのに対して、引用発明は全部沸き上げ方式であり、両者は本質的に異なる技術である。出願時において全部沸き上げ方式が技術常識であった。
(2)引用発明も引用文献2に記載された発明も全部沸き上げ方式であり、タンク内に上方から下方まで温度差が生じるように沸き上げる点は示唆されていない。
(3)したがって、引用発明の認定、両発明の一致点、相違点②の認定に誤りがある。
(4)両発明を組み合わすことに動機付けがない。

[2]被告の主張
(1)乙号証によれば、部分沸き上げ方式は、出願前から周知である。
(2)引用発明では、タンク内の上から下に向かって高温から低温の水が存在する。
(3)したがって、引用発明の認定、一致点、相違点の認定に誤りはない。

[3]裁判所の判断
(1)乙号証によれば、部分沸き上げ方式は出願時に技術常識であった。
(2)引用発明の認定、一致点、相違点の認定に誤りはない。
(3)相違点についての判断

・ 引用文献2に記載された発明は、湯温及び湯量を検知するセンサX1 ~X6の検出値に基づいて算出した総熱量から太陽熱コレクタで得られる熱量を減じた電熱量に応じてヒータを制御するものである。
・ 引用発明の沸き上げ方式は不明であるが、部分沸き上げ方式を採用することは設計事項である。
・ ヒートポンプと電気ヒータとは「加熱手段」という同一の技術分野である。
・ 引用発明に引用文献2に記載された発明を適用することの動機付けが認められ、両者を組み合わせることにより本願発明を容易になし得る。
 



6.コメント

(1)部分沸き上げ方式、全部沸き上げ方式は、出願人の主観的分類と判断された。
明細書にその違いが記載されていない限り、そのような主張は認められないと考えられる。

(2)発熱量制御がポイントであることから、発熱手段としてはヒートポンプも電気ヒーターも同じであるとの判断が示されたが、沸き上げ方を考えると、両者は別技術と考えられるが。その相違点を十分に明細書の中で説明していれば、今回とは異なる判断が下された可能性が高いと考えられる。
 

2013/08/07

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