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判例研究(水曜会)
20.【事件】平成22年(行ケ)第10229号-審決取消請求事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.事件の概要
不服2007-24241号の審決の取り消しを求めた。
2.経緯
平成12年9月14日 出願(特願2008-280041号)
平成19年1月30日 手続補正
平成19年7月31日 拒絶査定
平成19年9月 3日 拒絶査定不服審判請求
平成22年6月 9日 請求棄却審決
3.争点
補正後の発明(以下、本願発明と記す。)が、特許法29条2項により特許を受けることができるか否か。
4.結論及び理由のポイント
[1]出願に係る発明(補正後)
最大径が0.1mm~3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形方法において、該熱可塑性樹脂を溶融して金型内部に射出する際の該金型の温度が、射出される熱可塑性樹脂の荷重変形温度より0~100度高くなるように設定され、それによりゲートマークの発生が防止されることを特徴とする成形方法。
[2]審決の理由の概要
(1) 刊行物に記載された発明
ゲート11を有する金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形法において、溶融された熱可塑性樹脂を金型内部に射出する際の金型温度が、射出する熱可塑性樹脂の熱変形温度より0~100度高くなるように設定され、高品質外観を有する射出成形品を得る方法。
(2) 一致点と相違点
<一致点>
ゲートを有する金型を用いた熱可塑性樹脂の射出成形方法において、該熱可塑性樹脂を溶融して金型内部に射出する際の該金型の温度が、射出される熱可塑性樹脂の荷重変形温度より0~100度高くなるように設定された形成方法である点
<相違点>
本願発明では、ゲートは、最大径が0.1mm~3mmであるピンポイントゲート又はトンネルゲートであるのに対し、刊行物では、ゲート径が不明である点
(3) 容易想到性の論理
① 0.1mm~3mmのピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型は周知であり、臨界的意義もない。根拠は、特開平6-67695(0.8mmのピンポイントゲートが開示)、特開平5-60995(1.2mmのピンポイントゲートが開示)。
② 刊行物の技術的課題は、ウェルドラインやジェッティング等の外観不良の解消。
かかる課題は、ピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型においても従来から周知。根拠は、特開平11-98190、実開平6-11380。
③ そうすると、ピンポイントゲート又はトンネルゲートを有する金型による成形品において、ウェルドライン等の外観不良を解消するために引用例に記載された発明を適用することは、容易。
[3]原告の主張
刊行物を主引例として相違点を認定している以上、刊行物記載の発明に周知技術を適用して相違点の容易想到性を論理づけなければならないところ、審判合議体の論理は主引例を差し替えたものであり、理由に不備がある。
[4]被告の主張
相違点については、当業者が主引例及び周知技術に基づいて容易想到性があるかどうかを判断すべきである。刊行物記載の発明と周知技術とを組み合わせて一つの発明を構成するにあたって、刊行物記載の発明を周知技術に適用しても、周知技術を刊行物記載の発明に適用しても、組み合わせた結果としての発明に差異がないのであれば、容易想到性は肯定されるべき。
[5]裁判所の判断
本願発明について、金型に係る特定の発明(上記周知技術)を基礎として当該発明から容易に想到できたとの結論を導くのであれば、上記特定発明を個別的具体的に認定したうえで、本願発明の構成と対比して相違点を認定し、上記特定発明に公知の発明等を適用して上記相違点に係る本願発明の構成に到達することが容易であったといえる論理を示すことが必要である。
基礎となる発明が異なれば相違点が異なり、その相違点に係る構成を容易に想到できたかどうかの検討内容も異なるのであり、「組み合わせた結果に相違がない」とする被告の主張は採用できない。
5.コメント
審決は、刊行物1と本願発明との一致点・相違点を認定しながら、容易想到性の判断においては逆に周知技術に刊行物1の構成を追加するような論理付けを行っている。
裁判所は、主引用文献(刊行物1)と本願発明との一致点・相違点を出発点として、そこから本願発明の構成を導くことが容易といえる明確な論理プロセスを重視しており、組み合わせの順序は問題でないとする被告の主張を認めなかった。
拒絶理由通知において、各引用文献の組み合わせによって本願発明の容易想到性が認定されることがあるが、主引用文献から本願発明の構成に至るための論理付けが一方通行になっていないような場合は、本件のような反論が有効であると思われる。