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判例研究(水曜会)
2.【事件】平成18年(行ケ)第10422号-拒絶査定不服審決取消事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.争いのある発明
【請求項1】
「履物用の耐水性で通気性のある靴底(10; 110; 210)であって、 革又はそれと類似の材料でできた同様に通気性の底(11; 111; 211)、 上部領域で上記の底を少なくとも部分的に被覆する通気性で且つ耐水性の材料からなる 膜(12; 113; 212)、及び 少なくとも周縁に沿って上記の底と共に組み合わされ、少なくとも該膜の影響を受ける 領域に1つ以上の貫通孔(14; 115; 214)を備えた、ゴム又はそれと同等に不透過性の材料 でできた少なくとも1つの上部部材(13; 114; 213)とからなり、 上記の上部部材が上記膜の少なくとも周辺領域を被覆することを特徴とする靴底。」
【効果】 靴底の通気性と防水性が向上する。 蒸気の発散性が向上する。
2.引用発明 2-1
実開平2-125604
「靴用の防水性が通気性のある本底構造であって、 通気性のある革製本底1、及び 革製本底1の上面の少なくとも踏みつけ部に点接着で積層配置される通気性を有する 防水部材2からなる本底構造。」
2-2 周知技術(甲2乃至甲4(省略)) 靴底において、合成ゴム等の合成樹脂層を革に組み合わせること。
3.拒絶理由
引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたから、特許法 第29条第2項により特許を受けることができない。
4.対比
4-1 一致点 「履物用の耐水性で通気性のある靴底であって、 革又はそれと類似の材料でできた同様に通気性の底、および 上部領域で上記の底を少なくとも部分的に被覆する通気性で且つ耐水性の材料からなる膜、 からなる靴底。」
4-2 相違点 本発明は、少なくとも周縁に沿って底と共に組み合わされ、少なくとも膜の影響を受ける 領域に1つ以上の貫通孔を備えた、ゴム又はそれと同等に不透過性の材料でできた少なくとも 1つの上部部材を備え、上部部材が膜の少なくとも周辺領域を被覆しているのに対し、引用 発明は、かかる上部部材を備えていない点。
5.争点
5-1 審決の概要 引用発明に周知技術を組み合わせたうえで、 引用発明の防水性をより向上させるために、
①革製本底1の上面の露出部分を防水性のある合成樹脂で覆い、
②更に、防水部材2との境界部分からの漏れが生じないように、防水部材2の周辺部を合 成樹脂で覆うことは、容易である。
防水性向上のため、引用発明の革製本底1の上部露出部を合成樹脂で覆うと、この合成樹脂 は、必然的に、本発明の上部部材のごとく貫通孔を備えたものになる(特許庁の主張)。
5-2 争点 ・周知の積層技術を適用した場合に、本底の周縁に沿った領域のみを部分的に 合成樹脂で被覆するという考えに想到するのが容易かどうか。 ・上記した特許庁の主張が、想到容易性を肯定するものとして認められるか否か。
6.結論
周知技術を認定する甲2乃至甲4には、合成樹脂を革製の本底に積層する技術について開示 されているだけで、本発明の「貫通孔を有する上部部材」とその効果については全く記載され ていない。
防水性向上のため、引用発明の革製本底1の上部露出部を合成樹脂で覆うと、この合成樹脂 は、必然的に貫通孔を備えたものになるが、この主張は、本発明の相違点に係る構成(上部 部材)を後から論理付けしたものであり、採用できない。
⇒拒絶審決を取り消す。
7.コメント
特許庁側の上記主張は、本発明の構成を理解したうえで組み立てることができる論理で あると解する。つまり、本発明を知らなければ上記主張がなされることはないと思われる。
そうすると、後付けの論理として採用されないのは当然であり、妥当な判決である。
※意見書での主張に利用可能。