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33.【事件】平成20年(行ケ)第10121号 -審決取消請求事件-

【関連条文】第29条第2項

1.事件の概要

 不服2007-19302号の審決の取り消しを求めた。
 



2.経緯

 平成 8年 6月27日 元出願(特願平8-185330号)
 平成13年12月20日 分割出願(特願2001-387025号)
 平成15年 4月 7日 分割出願(特願2003-102825号、本願)
 平成19年 4月16日 手続補正
 平成19年 5月18日 拒絶査定
 平成19年 7月10日 拒絶査定不服審判の請求(不服2007-19302号)
 平成20年 1月21日 拒絶審決
 平成20年 3月 5日 審決謄本送達
 



3.争点

本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断に誤りがあるか否か。

<請求項1の記載>
「蛇口と連結可能な原水流入口と,原水をそのままストレート状またはシャワー状に吐水する各原水吐出口と,浄水器に接続可能な原水送水口とを備えた切換弁本体並びに取っ手部分を備えた切換レバーとを有する切換弁であって,該切換弁本体の内部に,該切換レバーと連動して回動する回転軸の回動操作により各原水吐出口または原水送水口への水路の切り換えを行う水路切換機構及び該切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構とを有するとともに,該切換レバーが,その取っ手部分の上面側または下面側の少なくとも一部分に,前記回転軸に対して常に平行となる略平面部を有する切換弁。」


<本願発明と引用発明の相違点>
ア「切換レバー」に関し,本願発明が「取っ手部分を備えた」ものであり,「その取っ手部分の上面側または下面側の少なくとも一部分に,回転軸に対して常に平行となる略平面部を有する」としているのに対し,引用発明はその様な特定をしていない点(審決書4頁21行~24行参照)

イ本願発明が「切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構を有する」としているのに対して引用発明ではその様な構成を有していない点(審決書4頁25行~27行参照)。
 



4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張
<取消事由1>
ア.引用発明においては,「レバーを回動方向に押すための,押圧方向に垂直な平面部」の位置が特定されていない。本願発明においては,「該切換レバーが,その取っ手部分の上面側または下面側の少なくとも一部分に,前記回転軸に対して常に平行となる略平面部を有する」との構成を採用している。

イ.この構成により,本願明細書(甲3)の段落【0017】に記載されているように「切換レバー22を60゜下方に押し下げると,・・・回転軸30を回転させる。」という操作が可能になり,また,段落【0021】に記載されているように,「切換レバーの押し倒す方向を切換レバーの押し下げではなく切換レバーの押し上げに代えることもできる。」。その結果,段落【0023】に記載されているように,「指が濡れていたり,手に物を持った状態等でも切り換え操作が簡単,かつ安全に行える。」という本願発明の効果を奏することができる。

<取消事由2>
ア.引用発明2のラチェット歯車94は,「直動-回動変換部」に設けられているのであって,本願発明のように切換レバーの回動操作に連動して回転軸を回動させるために,回転運動が伝達される「回動伝達部」に設けられているのではない。引用発明2のラチェット歯車94を引用発明の回動伝達部に対して,直ちに適用することはできない。

イ.①被回動部材と回動部材との間にラチェット機構を設けること,②ラチェット機構の構造として「直動-回動変換部」を備えたもの,③同様の構造として「回動-回動変換部」を備えたものが,被告主張のとおりいずれも本件出願前に周知技術であったといえるかどうかは明らかではない。審判においても審理の対象にもなっていない。


(2)被告の反論
<取消事由1>
ア.本願発明の特許請求の範囲には,レバーの操作角度について何らの記載もされてないから,任意の角度位置で操作し得るものであり,引用発明の【図4】と同様,レバーが垂直方向に配置された態様を排除していない。

イ.切換レバーの操作角度は任意であるから,取っ手部分の「上面側」または「下面側」を,明確に確定することはできない。引用発明においても,【図6】の状態ではレバーがほぼ水平方向に位置していると解される。

<取消事由2>
ア.①被回動部材と回動部材との間にラチェット機構を設けたもの,②ラチェット機構の構造として「直動-回動変換部」を備えたもの,及び③同様に「回動-回動変換部」を備えたものは,いずれも本件出願前,周知の技術事項である。

イ.審決では,上記の①ないし③の点がいずれも周知であることを明記していないが,実質的にこれらの点を踏まえて判断したものであり,引用文献2に記載されたラチェット機構の構造(直動-回動変換部)をそのまま引用発明に採用するのではなく,これを引用発明の回転操作されるレバーの回動伝達部に適用可能な構造として採用することを前提とした判断であり,当業者にとって自明の事項である。

(3)裁判所の判断
<取消事由1>
ア.「切換レバーに備えられた取っ手部分の上面側または下面側」とは,前記回転軸に対して常に平行となる略平面部が設けられる位置に関し,上面側又は下面側を厳密な意味で指す語ではなく,むしろ,上面側又は下面側を,一般的,相対な意味で指す語として用いられていると解するのが相当である。

イ.本願明細書を参照しても,切換レバー22の取っ手部分は,水平となるような基本位置があると理解することはできず,その取っ手部分の上側面又は下側面が,厳密な意味における上側又は下側であると特定されるものではない。

<取消事由2>
ア.引用発明は,レバーと回転軸との関係においては,「回動-回動変換」方式を採用している点において,本願発明と共通するのに対して,引用発明2は,押し部と回転軸中心との関係において「直動-回動変換」方式を採用しており,押し部11を押す直動の操作力を回転板9の回動に変換するとの技術的特徴を備えている点において,引用発明及び本願発明と相違する。

イ.引用発明2の技術的特徴及び相違点を考慮するならば,引用発明と引用発明2とを組み合わせて本願発明の構成に到達すること,すなわち,引用発明2のラチェット歯94を,引用発明の回動伝達部に適用することにより,本願発明の構成である「該切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構を有する」構成に至ることが容易であるとはいえない。

ウ.審決は,本願発明に係る容易想到性の判断に関しては,単に,「引用発明と引用文献2に記載された発明は,蛇口に連絡する切換弁において,水路切換機構を回動させる手段である点で共通するものであるから,引用発明において,回動伝達部にラチェット機構を用いることで相違点イに係る本願発明の構成とすることは,当業者に容易である」との説示をするのみであって,引用発明2に着目した実質的な検討及び判断を示していない。

エ.本件訴訟において,引用発明と引用発明2を組み合わせて,本願発明の相違点イに係る構成に達したとの理由を示して本願発明が容易想到であるとの結論を導いた審決の判断が正当である理由について,主張した前記の内容は,審決のした結論に至る論理を差し替えるものであるか,又は,新たに論理構成を追加するものと評価できるから,採用することはできない。
 



5.コメント

被告は、新たな証拠を提示して①~③が出願時点で周知であったことを裁判で初めて主張したが認められなかった。引用発明の組み合わせが審査段階と同じであっても、その組み合わせによって本願発明が容易想到であったといえる論理を後付けで追加することはできないとの判断が下された。審決取消訴訟において、特許庁が当時の周知技術のレベルを新たに主張してきた場合には、本件に基づく反論が有効なことがあると思われる。
 

2013/08/07

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