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47.【事件】平成23年(行ケ)第10140号 審決取消請求事件(第1審取訴訟)     平成24年(行ケ)第10270号 審決取消請求事件 (第2審取訴訟)

【関連条文】特許法第29条第2項

1.事件の概要

 不服2010-4969号の審決の取り消しを求めた。
 



2.経緯

 平成12年 5月22日    出願(特願2000-188412)
 平成16年 5月17日    第1回手続補正書提出
 平成21年11月13日    拒絶査定
 平成23年 1月 4日    拒絶査定不服審判請求
                  第2回手続補正書提出(本願発明)
 平成23年 3月 8日    請求棄却(拒絶)審決
                  第1審取訴訟
 平成23年12月19日    審決取消(審判差戻し)
 平成24年 6月12日    請求棄却(拒絶)審決
 



3.争点

本願発明が引用例1(主引例)及び引用例2との関係で進歩性を有するか。
 



4.本願発明(請求項1に係る発明)

結晶薄膜の原料となる超微粒子又は化合物を水又は溶液に溶かしてゾル化した液体を準備し、
超音波を用いて、準備した液体から超微粒子又は化合物を含有した霧を発生させ、
発生させたこの霧を搬送ガスを用いて高温炉の内部に搬入し、
この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分解し、
前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて、
結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法であって、
前記基板表面にマイクロ波を照射しながら高温の超微粒子を前記基板表面上に結晶を成長させることを特徴とする気相成長結晶薄膜製造方法。
 



5.第1審取訴訟での争点

(1)本願発明
要するに、目的材料の完全結晶を作ることを主な課題とし、結晶薄膜を製造する原料の供給方法として超音波で発生させた霧を使用し、高温の超微粒子の気体を高温の大気炉の中で作り、その気体から気相成長法によって成分や配合比を極限まで制御できる薄膜製造方法である。

(2)主引例に記載された発明
ディスプレイパネルのガラスプレートの誘電体表面に酸化マグネシウムを基礎とする層を付着させる方法であり、アモルファス領域なしに実用的に耐水性を有するのに十分な密度の多結晶化された酸化マグネシウムの付着層をもたらす発明。

具体的には、

マグネシウムの有機金属化合物を溶媒に溶解した溶液を超音波発生器を備えた容器に入れ、前記溶液を超音波による噴霧化操作により霧を発生させ、前記霧をベクターガスにより導管を通じてチャンバー内のプレートの誘電体表面へ運び、前記チャンバーでは、誘電体表面を約380℃~430℃の温度へ上昇させたプレートに霧が近接するにつれて溶媒が蒸発し、マグネシウムの有機金属化合物を熱分解させてプレートの表面に多結晶化された酸化マグネシウムの付着層を生じさせる方法。

(3)争点A(両発明の一致点の認定)
結晶薄膜の原料となる超微粒子又は化合物を水又は溶液に溶かしてゾル化した液体を準備し、
超音波を用いて、準備した液体から超微粒子又は化合物を含有した霧を発生させ、
発生させたこの霧を搬送ガスを用いて高温炉の内部に搬入し、
この高温炉の中で高温の超微粒子又は化合物と高温の水又は溶液の霧に分解し、
前記高温の水又は溶液の霧を排出しながら前記高温の超微粒子又は化合物を基板表面上に結晶を成長させて、結晶薄膜を作る気相成長結晶薄膜製造方法、
である点で一致するかどうか。

① 被告(特許庁)の判断
 一致する。

② 裁判所の判断
 一致しない。


本願発明の「高温炉」では、超微粒子を含んだ霧粒が高温炉の壁に接触することによって高温の超微粒子と高温の水蒸気に分解する。そのために炉自体が超微粒子化合物が分解する温度より低く、また超微粒子と水が分離する温度以上の温度範囲の温度に加熱される。

他方、主引例では、誘電体表面が約380℃~430℃となるようにプレートが加熱されるが、チャンバー自体が加熱されるものではないし、超微粒子を含んだ霧粒がチャンバーの壁に接触して分解されることは記載されていない。

そうすると、本願発明の「高温炉」が主引例の「チャンバー」に相当するものではなく、したがって上記一致点の認定が誤っている。→ 審決の結論に影響

(4)争点B(相違点の容易想到性)
結晶薄膜を形成する原料となる微粒子として、本願発明が『超微粒子』を用いるのに対して主引例が『微粒子』を用いる点について

① 被告(特許庁)の判断
引用例2には、薄膜材料の微粒子の粒子径は、成膜速度を考慮して適宜選択されることを示唆している。主引例も引用例2も結晶酸化膜の製造方法という同一の技術分野であり、SnO2粒子にあてはまることは酸化マグネシウムにもあてはまると推認されるから、主引例において微粒子に代えて超微粒子が採用されることは設計事項である。

② 裁判所の判断
本願発明は、「超音波を用いて、準備した液体から超微粒子又は化合物を含有した霧を発生させ」とあるから、本願発明の「超微粒子」は結晶薄膜の原料の粒を意味し、霧粒の中に含有されている。他方、各引例の「微粒子」は霧の粒径を意味する。両者はまったく異なる概念であり、この相違点は適宜採用し得る設計事項ではない。
 



6.第2審取訴訟での争点

本願発明の「高温炉」が主引例の「チャンバー」に相当し、当該チャンバーに代えて引用例2のマッフル炉を採用することによって、本願発明の「高温炉」は容易に想到されるかどうか。具体的には、

A 本願発明に係る「超微粒子」と主引例に係る「微粒子」とは本質的に同じか。
B 本願発明の「高温炉」は、引用例2の「マッフル炉」に相当するか。

(1)被告(特許庁)の判断
争点Aについて、反応器内において低温帯域で霧を発生させ、高温帯域で分解し、金属イオンを反応させて基板上に薄膜を形成する技術は公知(公知文献)である。主引例でも原告は「霧粒を基板上でそのまま積層又は近傍で熱分解して基板上に多結晶薄膜を形成する」と主張するが、実際は、炉内で分解し、基板上に薄膜が形成されている。

争点Bについて、原告の主張(高温の超微粒子を作成するために高温炉の内壁に接触する点)は、特許請求の範囲に基づかない主張である。

(2)原告の主張
 主引例の「微粒子」は、有機溶液に溶け込んだ有機金属であり、基板で熱せられて分解、結晶化して基板上に蓄積される。この場合、通常は多結晶化した薄膜が形成される。一方、本願発明の「超微粒子」は、ゾル化された化合物の霧が熱分解され、単結晶化された化合物が薄膜を形成する。粒径のオーダーは、4ケタ~5ケタの違いがある。

(3)裁判所の判断
前回判決が指摘した「高温炉」と「チャンバー」との相違点の技術的意義が考慮されてしかるべきである。引用例2は、加熱された搬送ベルトからの伝熱と、マッフル炉内から輻射熱とにより基板表面が加熱され、これに微粒子化された溶液中の化合物が接触して熱分解されるものである。

同文献には、マッフル炉の壁面に接触した霧粒が熱分解される旨の記載はない。よって、本願発明の「高温炉」は、引用例2の「マッフル炉」に相当しない。
 



7.コメント

本願発明の「高温炉」が主引例の「チャンバー」に相当しないとの主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であるが、裁判所は明細書の作用の記載から原告の主張を認めている。

審査段階において、裁判所が権利範囲の解釈と同様の論理で本願発明を特定してもよいのかは疑問である。

特に、霧粒がチェンバーの壁に接触して分解されるとの効果が実際に起こりうるのかは問題とされていないが、本願発明で起こるのであれば、主引例の構成においても起こりうるのではないだろうか。
 

2013/08/07

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