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57.【法上の発明】 平成26年(行ケ)第10014号 審決取消請求事件


【事件】 平成26年(行ケ)第10014号 審決取消請求事件

【関連条文】 特許法第29条第1項柱書(法上の発明)

 

1.事件の概要

 不服2012-16757号の審決の取り消しを求めた。

 

2.経緯

平成23年12月 1日 出願(特願2011-263928号)

平成24年 6月18日 拒絶査定

平成24年 8月28日 拒絶査定不服審判の請求

平成25年12月 3日 拒絶審決

平成26年 1月13日 審決謄本送達

 

3.争点

 所謂「構造を有するデータ」が法上の発明(29条1項柱書)に該当するか否か

 

4.補正後の請求項1

 知識ベースシステムであって,

 コンピュータによる論理演算の対象となる知識ベースを記憶している記憶部を備え,

 前記知識ベースは,物を識別する物識別子と,前記物がもつ少なくとも一つの属性であって,当該物の物識別子と対応づけられた属性とを含み,

 前記属性には,当該属性を識別する属性識別子が1対1に対応づけられ,

 前記属性識別子には,属性を表す少なくとも一つのデータである特徴データ,及び属性を表す言葉に対応付けられたデータである識別データのうちの少なくとも一方が対応づけられ,

 前記物識別子は,物を表す言葉ではなく,かつ,それ自体で物の意味を持たない記号で構成され,

 前記属性識別子は,属性を表す言葉ではなく,かつ,それ自体で属性の意味を持たない記号で構成され,

 前記特徴データは,対応する属性の実体であり,

 前記識別データは,対応する属性を識別するためのデータである

 知識ベースシステム。

 

5.原告の主張

(1)「知識ベース」をコンピュータに読み取らせた場合には,読み取り処理として,コンピュータが動作することは技術常識である。そして,本件補正発明の「知識ベース」は,「コンピュータによる論理演算の対象となる」ことが記載されている。したがって,本件補正発明は,コンピュータによって利用されるもの,すなわち,自然法則を利用したものであることは明らかである。

(2)本件補正発明は,情報処理に特徴を有するのではなく,知識の表現方法に特徴を有するところ,データ構造に特徴を有する発明については,データとハードウェア資源とが協働した具体的手段が請求項に記載される必要はない。本件補正発明に係る「知識ベース」は,いわゆるデータベースのことであり,請求項の記載から,コンピュータのハードウェア資源によって利用されることは明らかである。

 

6.被告の主張

(1)知識ベースを構成する各項目や定義は,人為的に取り決められたものであるから,これ自体は,自然法則を利用しているといえない。また,「コンピュータによる論理演算の対象となる」との記載は,単にコンピュータに読み取られて処理対象となること,すなわちコンピュータの使用を前提とすることを明示する以上のものではない。

(2)コンピュータによる読み取り及び論理演算は,コンピュータが具備する構成であって,本件補正発明が具備する構成ではない。本件補正発明の知識ベースは,特定の構造を有するデータの単なる集まりでしかなく,単なるデータは,コンピュータに対する命令を規定し,コンピュータを動作させるものではないから,その構造を特定しただけでは,通常は,使用目的に応じた特有の情報処理が把握できず,自然法則を利用した技術的思想であるとはいえない。

 

7.裁判所の判断

(1)「知識ベース」が論理演算の対象となるという点は,コンピュータが有する一般的機能にすぎないから,それだけで直ちに「発明」に該当するということはできない。また、本件補正発明については,全体として未だに抽象的な概念ないし人為的な取決めに止まるものであり,その技術的意義が明らかとなっていないから,「自然法則を利用した」技術的思想の創作に該当しない。

(2)本件補正発明は,物を符号により識別した上で,言葉に関連するデータとそれ以外のデータに分類するという整理方法を提示したにすぎず,その整理方法が何らかの自然法則を利用しているとはいえず,また,その整理方法をとることによって,コンピュータによる処理効率が高まるなど何らかの技術的な効果が得られるともいえない。

 

8.考察

(1)「構造を有するデータ」が発明に該当するためには、コンピュータが有する一般的機能が明示されているだけでは足りず、技術的効果が得られることが理解できる程度まで具体的な情報処理が把握される必要がある。

 

(参考)審査基準 コンピュータ・ソフトウエア関連発明2.2.1より抜粋

「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働することによって、使用目的に応じた特有の情報処理装置又はその動作方法が構築されることをいう。

 

(2)但し、コンピュータのハードウエア資源がどのように用いられて処理されるかが直接的に記載されていなくても,間接的に記載されていれば、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する可能性がある。

 

2018/06/22

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