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40.【事件】平成22年(行ケ)第10351号 -審決取消請求事件-

【関連条文】第29条第2項

1.事件の概要

 不服2009-10504号の審決の取り消しを求めた。

 



2.経緯

 平成11年11月16日 出願(特願2000-582314号)
 平成21年 2月 2日 手続補正
 平成21年 2月23日 拒絶査定
 平成21年 6月 1日 拒絶査定不服審判の請求(不服2009-10504号)
 平成22年 7月 5日 拒絶審決
 平成22年 7月16日 審決謄本送達
 



3.争点

引用発明に周知技術を適用することの容易性
 



4.審決の判断

<本願発明(審決確定時)>
A)飲食物廃棄物の処分のための容器であって,
B)飲食物廃棄物を受け入れるための開口を規定し,かつ
C-1)内表面および外表面を有する液体不透過性壁と,
C-2)前記液体不透過性壁の前記内表面に隣接して配置された吸収材と,
C-3)前記吸収材に隣接して配置された液体透過性ライナーとを備え,
D)前記容器は前記吸収材上に被着された効果的な量の臭気中和組成物を持つ,飲食物廃棄物の処分のための容器。

<引用発明(刊行物1に記載されていると認められた発明)>
生ゴミを収納するためのゴミ入れ袋であって(A),生ゴミを受入れる開口を有し(B),内面と外面を有するプラスチック袋(C-1)と,前記プラスチック袋の前記内面に被覆された吸水性ポリマー層とを備え(C-2),前記ゴミ入れ袋は前記吸水性ポリマー層に練り込まれた抗菌性ゼオライトを有する,生ゴミを収納するためのゴミ入れ袋。

<相違点>
(1)本願発明と引用発明とは,液体透過性ライナーの有無において相違する(C-3)。 (2)本願発明と引用発明とは、臭気中和組成物が、吸収材上に被着されているか、吸収材に練り込まれているかにおいて相違する(D)。

<審決の判断>
(1)相違点1に対応する周知事項1を引用発明に適用することは容易である。
(2)相違点2に対応する周知事項2を引用発明に適用することは容易である。
 



5.結論及び理由のポイント

☆原告の主張
(1)相違点1について
ⅰ)本願発明は、廃液やそれに飽和された吸収材との接触を避けることができると共に、臭気中和組成物を内側から保持して剥がれ落ちるのを防止できる利点を有する。

ⅱ)引用発明は、吸収ポリマーがむき出しになったゴミ袋のみが記載されており、液体透過性ライナーに関する示唆も言及もない。すなわち、液体透過性ライナーを設ける動機付けはない。

ⅲ)周知例1~5は、その技術分野・目的・解決課題・作用効果・機能等が本願発明と異なるものであり、周知例1~5に記載の液体透過性の層はいずれも本願発明の「液体透過性ライナー」に該当しない。


(2)相違点2について
ⅰ)引用例は、芳香消臭剤をスプレー噴霧しても持続性がないという課題を解決するために消臭剤を吸収性ポリマー層に練り込んだものであり、臭気中和組成物を吸収材の内側表面に被着させることについて阻害事由がある。

ⅱ)周知例6、7は、その技術分野・目的・解決課題・作用効果・機能等が本願発明と異なり、引用発明に適用する動機付けがないか、阻害要因がある。


☆被告の反論
(1)相違点1について
原告の主張する解決課題は引用発明に内在する自明の課題或いは技術常識であるので、引用発明に周知事項1を適用することは容易である。


(2)相違点2について
引用発明の「吸水性ポリマー層に練り込まれた抗菌性ゼオライト」は、抗菌性ゼオライトのすべてが吸水性ポリマー層の内部に存在することを意味するものではなく、表面に被着しているもをも許容している。

すなわち、原告の主張する阻害要因は存在せず、引用発明に周知事項2を適用することは容易である。

☆裁判所の判断
(1)理由の不備
相違点1,2が周知事項であるからといって、当然に引用発明に周知事項1,2を適用することが容易であるとの結論を導くことは妥当性を欠く。

(判決文27ページ13行目~抜粋)
「従たる引用発明等」は,出願前に公知でありさえすれば足りるのであって,周知であることまでが求められるものではない。

しかし,実務上,特定の技術が周知であるとすることにより,「主たる引用発明に,特定の技術を適用して,前記相違点に係る構成に到達することが容易である」との立証命題についての検証を省く事例も散見される。特定の技術が「周知である」ということは,上記の立証命題の成否に関する判断過程において,特定の文献に記載,開示された技術内容を上位概念化したり,抽象化したりすることを許容することを意味するものではなく,また,特定の文献に開示された周知技術の示す具体的な解決課題及び解決方法を捨象して結論を導くことを,当然に許容することを意味するものでもない。

(2)相違点1についての判断の妥当性
ⅰ)相違点1は、周知例1~5より周知(周知事項1)である。
ⅱ)引用発明に周知事項1を適用する動機付けは存在しない。

(判決文30ページ7行目~抜粋)
しかし,仮に,そのように理解したとしても,引用発明に,上記の意味に理解した周知技術を適用して,本願発明の相違点1に係る構成に至ることの動機付けはなく,容易であるとの結論を導くことはできない。

すなわち,引用発明は,「吸水性ポリマー層」が吸水材として用いられ,プラスチック袋の内面に「被覆」されたものであること,「吸水性ポリマー層」はプラスチック袋と一体化されていること等から,その被覆された形状及び態様は,安定的に維持されている(少なくとも安定的に維持されることを目的として形成されている)と解されること,引用発明の吸収材は,基材シート上に配置された吸収材の形状等をさらに維持しなければならない課題はないと解されることに照らすならば,吸収材の形状等を維持する等の目的のために,刊行物1に記載も示唆もない「液透過性のライナー」を,あえて配置する動機付けは存在しない。


(3)相違点2についての判断の妥当性
ⅰ)相違点2は、周知例6、7より周知(周知事項2)である。
ⅱ)引用発明には、周知事項2を適用することについて阻害要因がある。

(判決文31ページ11行目~抜粋)
刊行物1には,臭気中和組成物である抗菌性ゼオライトは吸収材に練り込まれていることが記載され,「練り込むこと」に解決課題があること及び「練り込むこと」に代えて,他の態様を選択することを示唆する何らの記載もない。そこで,引用発明において,抗菌性ゼオライトを吸収性ポリマーに「練り込むこと」に代えて,吸収性ポリマー層の上に「被着」する態様を選択したことを想定すると,当業者であれば,かえって,吸収材表面から抗菌性ゼオライトの粉体が脱落するとの問題が発生するものと理解する(甲12)。そうだとすると,引用発明の「練り込むこと」に代えて,問題の生じる可能性のある態様を選択することは,特段の事情のない限り,回避されるべき手段であると解するのが相当である。
 



5.コメント

(1)理由を示すことなく「周知事項を引用発明に適用することは、当業者が容易になし得たことである。」として拒絶された場合の反論材料になり得ると思われる。

(2)各構成要素を設ける目的・作用効果・使用態様等を詳細に明細書に記載しておくことにより、引用例の動機付けを否定する根拠として使える可能性がある。

(3)周知か否かの判断に課題を考慮してもよいのだろうか。例えば、特定の課題を解決するために今までとは異なる方法で周知技術を適用した場合、それはもはや周知技術ではないと主張することはできないだろうか。


(参考)
1.平成23年(行ケ)第10121号 審決取消請求事件
①当業者の技術常識ないし周知技術の認定,確定に当たって,特定の引用文献の具体的な記載から離れて,抽象化,一般化ないし上位概念化をすることが,当然に許容されるわけではなく,また,②特定の公知文献に記載されている公知技術について,主張,立証を尽くすことなく,当業者の技術常識ないし周知技術であるかのように扱うことが,当然に許容されるわけではなく,さらに,③主引用発明に副引用発明を組み合わせることによって,当該発明の相違点に係る技術的構成に到達することが容易であるか否という上記の判断構造を省略して,容易であるとの結論を導くことが,当然に許容されるわけではないことはいうまでもない。

2.平成23年(行ケ)第10193号 審決取消請求事件 「椅子式マッサージ機」
(・・・途中省略・・・)マッサージ機の技術分野において,施療子を移動させる際に突出量が大きいと,使用者の身体に対する危険がある,あるいは,駆動装置に大きな負荷がかかるなどといった問題の存在は,当業者にとって広く知られた周知の課題であったと認められ,そのような課題を解決するために,施療子の突出量を最小にして,あるいは突出量が小さくなるよう調整して移動させることも,周知の技術事項であったと認められる。

(・・・途中省略・・・)当業者が,脚部用の移動する施療子を設けた甲1発明に接した場合に,施療子の移動に関する上記の一般的な課題を認識し,これを解決するために周知の技術事項を甲1発明に適用して,スイッチ操作等の入力に応じて制御回路が(脚支持台ごと)施療子を移動させる際に,突出量を最小とする,すなわち非突出状態とすることや,突出量を適宜小さく調整することは,甲1公報自体に示唆等がなくとも,適宜なし得ることというべきである。
 

2013/08/07

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