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54.【進歩性】 平成25年(行ケ)第10213号 審決取消請求事件


【関連条文】 第29条第2項(進歩性)

1.事件の概要

不服2012-26018号の審決の取り消しを求めた。

 



2.経緯

   平成20年 9月30日 出願(特願2008-255220号)
  平成23年12月 8日 拒絶理由通知
  平成24年 2月13日 手続補正書の提出
  平成24年 9月28日 拒絶査定
  平成24年12月28日 拒絶査定不服審判の請求
  平成25年 6月10日 請求棄却審決
  平成25年 7月25日 審決取消訴訟提起

 

 



3.争点

引用例1(特開2003―19169号公報)及び引用例2(特開平9-249711号公報)に記載された発明に基づいて本願発明を想到するのは当業者にとって容易か否か。

 


4.審決の理由

本願発明は,引用例1(特開2003-19169号公報)及び引用例2(特開平9-249711号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。よって、本願は拒絶されるべきものである。

<補正後の請求項1>(本願発明)
使用済み紙オムツを消毒し処理する使用済み紙オムツの処理方法であって,
石灰と次亜塩素と使用済み紙オムツを処理槽内に投入し,
前記処理槽内で撹拌可能な最低限の水を給水しながら,石灰により分解された使用済み紙オムツから,該使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて,所定時間にわたり撹拌し,
前記処理槽内の液体を処理槽の外へ排出させると共に脱水し,
排出された廃水を回収し水質処理を施して破棄することを特徴とする使用済み紙オムツの処理方法。」

<引用例1発明の内容>
使用済み紙おむつの処理方法であって,回転ドラムに紙おむつを投入し,これに膨潤抑制剤として塩化カルシウム,及び消毒剤として次亜塩素酸ナトリウムの水溶液の所定量を供給し,回転ドラムを回転させて撹拌し,紙おむつの吸水性ポリマーの膨潤を抑制すると共に消毒する膨潤抑制工程と,汚物と吸水性ポリマーとセルロースの分散液から処理液を濾別して処理液を下水処理施設へ排出する工程と,セルロースと吸水性ポリマーを回収する工程を含む方法。

<一致点>
「使用済み紙オムツを消毒し処理する使用済み紙オムツの処理方法であって,
『高吸収性ポリマーから水分を放出させる薬剤』と次亜塩素と使用済み紙オムツを処理槽内に投入し,
前記処理槽内で,『高吸収性ポリマーから水分を放出させる薬剤』と次亜塩素により使用済み紙オムツを所定時間にわたり撹拌し,
前記処理槽内の液体を処理槽の外へ排出させると共に脱水し,
排出された廃水を回収し水質処理を施して破棄することを特徴とする使用済み紙オムツの処理方法」である点。

<相違点1>
「高吸収性ポリマーから水分を放出させる薬剤」に関し,本願発明では「石灰」を使用するのに対し,引用例1発明では「塩化カルシウム」を使用する点。

<相違点2>
給水に関し,本願発明では,「処理槽内で撹拌可能な最低限の水を給水しながら」,「該使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行うのに対し,引用例1発明では,「高吸収性ポリマーから水分を放出させる薬剤」と次亜塩素からなる所定量の水溶液(以下「薬剤水溶液」という。)を供給(給水)して撹拌を行う点。

 


 

5.原告の主張

引用例1の段落【0049】及び【0074】の記載によれば,引用例1発明は,使用済み紙オムツに吸収されていた水分の量に関係なく,水溶液の供給量を決定し,所定量の処理液を供給してから撹拌を始めるものである。
そうすると,引用例1発明においては,分解された使用済み紙オムツに吸収されていた水分をも利用して,供給液量を撹拌可能な最低限の量とすることの動機付けはないというべきである。

 

 



6.被告の主張

A.給水量を処理槽内で攪拌可能な最低限の量とする点について
相違点2に係る本願発明の構成における給水量を「処理槽内で撹拌可能な最低限」の量とする点については,環境やコストなどに配慮して,下水処理すべき処理液の量を減らすことは,当業者にとっては自明の課題であり,特別の動機付けは必要ない。よって,引用例1発明において,使用される水の量を減らし,薬剤水溶液の所定量を「処理槽内で撹拌可能な最低限」の量と特定することは,当業者が容易になし得ることである。
B.使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いる点について
引用例1発明は,使用済み紙オムツを処理するものであって,使用済み紙オムツに尿,すなわち水分が含まれていることは明らかであり,このような使用済み紙オムツについての薬剤と水が存在する状態での撹拌は,当然,「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用い」た撹拌であるといえるから,この点は,本願発明と引用例1発明との実質的な相違点ではない。
C.給水しながら攪拌を行う点について
引用例1発明において供給される「薬剤水溶液」を構成している薬剤と水の添加順序や添加方法を変更してみることは,当業者が必要に応じて適宜検討する事項であり,引用例1発明において,添加する薬剤を「薬剤水溶液」とした状態で添加することに代えて,薬剤と水を別々に添加することとし,その際に,予め薬剤を添加した後に,水を徐々に供給する方法を採用し,「給水しながら」の構成とすることは当業者が適宜なし得ることである。

 

 


7.裁判所の判断

上記A.について
撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,処理槽内に供給する水の量を必要最低限の量とする技術思想は,下水処理すべき処理液の量を減らすという課題から直ちに導出できるものではない。また,引用例1発明において,薬剤水溶液の所定量を「処理槽内で撹拌可能な最低限」の量と特定することを想到し得るとしても,そのことは,上記技術思想に想到し得ることを意味するものではない。
上記B.について
引用例1発明における所定量の薬剤水溶液中での使用済み紙オムツの撹拌においても,結果的に,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分も撹拌に用いられているものとはいえる。しかし,引用例1発明における薬剤水溶液の量及び同薬剤水溶液に含まれる薬剤の濃度は,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を考慮して定められたものとは認められない。よって,引用例1発明は,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量をも利用するいう上記技術思想を具現化しているものとはいえない。
上記C.について
引用例1には,使用済み紙オムツに含有する尿などの水分の具体的な量や,膨潤抑制剤水溶液に浸漬することにより吸水性ポリマーから染み出す水分の具体的な量について言及した記載はないし,また,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,撹拌に用いる薬剤水溶液の量あるいは薬剤水溶液に含有する水の量を必要最低限の量とすることができることについての記載や示唆もない。そうすると,引用例1に接した当業者において,引用例1発明における薬剤水溶液を薬剤(膨潤抑制剤及び消毒剤)と水に分離し,それぞれの供給を別々に行うこととした上で,回転ドラム内で「撹拌可能な最低限の水を給水しながら」,「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う構成を採用する動機付けがあるものとは認められない。

 

 

2016/01/07

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