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49.【進歩性】平成24年(行ケ)第10412号 審決取消請求事件

【関連条文】特許法第29条第2項(進歩性)

1.事件の概要

 不服2012-1824号の審決の取り消しを求めた。



2.経緯

  平成22年 1月18日 出願(特願2010-7777号)
  平成23年10月26日 拒絶査定
  平成24年 1月31日 拒絶査定不服審判の請求(不服2012-1824号)
  平成24年 1月31日 手続補正書の提出
  平成24年10月16日 補正却下した上で請求棄却審決

 



3.争点

引用発明(特開平10―155542号公報に記載された発明)と周知技術とに基づき本願発明を想到するのは当業者にとって容易か否か。



4.審決の理由の概要

本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるから,独立特許要件を満たしていない。よって、補正却下されるべきものである。
本願発明は,本願補正発明から,発明を特定するために必要な事項である「繊維束ではない多孔性の」との限定を省いたものであるから,本願補正発明と同様に,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
以上により,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

<補正後の請求項1>(本願補正発明)
塗布部先端の端縁部を直線状又は平面状にしてなる化粧用チップであって,支持具の一端に繊維束ではない多孔性の基材が接着又はアウトサート成形されることにより設けられた化粧用チップ。

<補正前の請求項1>(本願発明)
塗布部先端の端縁部を直線状又は平面状にしてなる化粧用チップであって,支持具の一端に基材が接着又はアウトサート成形されることにより設けられた化粧用チップ。

<引用発明の内容>
アイラインを描くためのアイライナーの芯2であって,
アイライナーは,中空の棒状の本体1の両端に,薄い板状の,それぞれ
厚みは同じで,幅の異なる芯2を取り付けたアイライナーであり,
芯2の先端面6は略平面状であり,芯2の先端面6の一辺は略直線状で
あり,
芯2の素材は,スポンジ状の素材を使用する,芯2。

<一致点>
塗布部先端の端縁部を線状又は面状にしてなる化粧用チップであって,支持具の一端に繊維束ではない多孔性の基材が設けられた化粧用チップ。

<相違点1>
本願補正発明の化粧用チップが「塗布部先端の端縁部を直線状又は平面状にしてなる」のに対し,引用発明の化粧用チップの塗布部先端の端縁部は,略直線状又は略平面状ではあるものの,直線状又は平面状であるのか否か不明な点。

<相違点2>
支持具の一端に基材を設けるに当たり,本願補正発明では,「接着又はアウトサート成形されることにより設けられ」ているのに対し,引用発明では,「接着又はアウトサート成形されることにより設けられ」ているのか否か不明な点。

 



5.原告の主張

審決は、本願補正発明と引用発明との相違点を看過している。
アイライナーと化粧用チップとは,使用する化粧の部位,化粧液を積極的に保持する構造の有無やそれによる用途,塗り方などの点において明らかに相違するから,アイライナーと化粧チップとを互いに置換可能な用具として位置付けることはできない。よって,アイライナーである引用発明が化粧用チップと同じであるとした審決の認定は誤りである。

 



6.被告の反論

審決は,本願の特許請求の範囲に「化粧用チップ」の具体的用途や使用方法について何らの特定のないこと,本願補正発明の「化粧用チップ」はアイラインを引くことにも使用されること,引用発明の「アイライナーの芯2」も「塗布用の先端部材」という意味における「化粧用チップ」の概念に含まれることを踏まえた上で,「引用発明の『アイラインを描くためのアイライナーの芯2』又は『芯2』は,文言の意味,形状又は機能等からみて本願補正発明の『化粧用チップ』に相当し」と認定したのであり,その認定に誤りはない。

 



7.裁判所の判断

化粧用チップは,面状のアイシャドー等及び線状のアイライン形成のいずれのためにも使用することができるのに対し,アイライナーの芯2は線状のアイライン形成のためにのみ使用することができるものであり,面状のアイシャドー等を形成するために使用されるものではない。したがって,化粧用チップとアイライナーの芯2とは,一部において用途が共通するとしても,その主たる用途は異なるものであり,これを化粧用具の先端部として同一のものとみることはできない。
引用発明の「アイライナーの芯2」は,化粧用チップと異なり,まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり,これを塗り広げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏さず,線状にアイラインを描くとの機能のみを奏するものであるから,そのような「アイライナーの芯2」の塗布部先端の形状を,まぶたや二重の幅に化粧料を面状に塗布したり,これを塗り拡げるなどしてアイシャドー等を施すとの機能を奏する化粧用チップの塗布部先端の形状として転用し得るものか否かは直ちには明らかではなく,本来であるならば,審決は,このような相違点も踏まえて容易想到性についての判断をすることを要するのに,これをせずに,アイライナーの芯と化粧用チップとの上記相違点を看過して容易想到性の判断をしたものである。
よって,審決には本願補正発明と引用発明との相違点を看過した誤りがあり,この審決の判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取消しを免れないと判断する。

 



8.コメント

 本願発明に係る化粧用チップは(主たる用途ではないが)アイライン形成にも使用できる一方、引用発明に係るアイライナーの芯はアイライン形成にのみ使用するものです。この場合、化粧用チップとアイライナーの芯とを同じとする認定は許されない旨、判示されています。この点については、意見書などでの主張で使えそうです。
 

2015/08/19

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