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22.【事件】平成22年(行ケ)第10237号 -審決取消請求事件-

【関連条文】特許法第29条第2項

1.事件の概要

 不服2009-20849号の審決の取り消しを求めた。
 



2.経緯

平成20年 6月17日 特許出願(特願第2008-157503号)
平成21年 6月11日 手続補正(以下、手続補正1と記す。)
平成21年 7月14日 拒絶査定
平成21年10月28日 拒絶査定不服審判の請求(不服2009-20849号)
平成21年10月28日 手続補正(以下、手続補正2と記す。)
平成22年 6月 7日 上記手続補正を却下の上、請求棄却審決
平成22年 6月28日 審決謄本送達
 



3.争点

手続補正1後の発明(以下、本願発明と記す。)が、特許法29条2項により特許を受けることができるか否か。

<手続補正1後の請求項1の記載>
上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器と,前記圧力容器の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある水処理装置。

<手続補正2後の請求項1の記載>
上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器(水の超臨界状態及び亜臨界状態における水熱反応用の容器を除く)と,前記圧力容器の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある水処理装置。

<引用発明>
上部に工場等から排出される廃液中の有機物と水を混合して反応器に供給する被反応物供給路及び過酸化水素等の過酸化物等の酸化剤を供給する酸化剤供給路が連絡する,被反応物を反応器内に,噴射流調整装置により噴射流の霧化度を変化させて噴射する噴射装置と,下端部に反応物取出部が設けられる耐圧性材料を用いた反応器を含む水熱反応装置。

<一致点>
上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器と,前記圧力容器の供給口には被処理物を供給する管路が接続してあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある処理装置である点。

<相違点>
相違点1:被処理物について,本願発明では,「管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあ」るのに対し,引用発明では,噴射装置に「過酸化水素等の過酸化物等の酸化剤を供給する酸化剤供給路が連絡する」ものである点。

相違点2:本願発明は,「水処理」について特定されていないのに対し,引用発明においては,「水熱処理」に特定する点。

<審決の理由の概要>
手続補正2は、特許法17条の2第3項及び第6項において準用する同法126条5項の規定に違反するとして、手続補正2を却下し、本件出願に係る発明の要旨を本願発明のとおり認定した上、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された発明、及び周知例等に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
 



4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張
①発明の認定の誤り
本件審決は、化学反応のための装置において、その装置内における化学反応メカニズムが異なるものを同一としており、発明の認定の基本において誤っている。

②一致点の認定の誤り
本願発明と引用発明とは、有機物を分解する化学反応メカニズムの点で異なるから、両者の化学装置を同一技術であると認定した本件審決は誤りである。よって、引用発明の水熱反応装置と本願発明の水処理装置とが「処理装置」として共通すると認定したのは誤りである。

③相違点2の認定判断の誤り
本件審決の判断は、水熱処理を正確に理解しておらず、亜臨界状態近くの高温高圧状態までをも本願発明が含んでいたと、技術常識に反して拡大解釈をしており、誤りである。

(2)被告の反論
①発明の認定の誤り
化学反応メカニズムに関連して化学装置が特有の構造を有する場合は,その構造に対応する装置構成が発明特定事項として記載されるところ,本願発明には,酸化剤としてオゾンを使用すること以外は,圧力や温度等化学反応メカニズムに必要とされる事項が発明特定事項として記載されていない。本願発明と引用発明の各処理装置では、有機物分解反応において、酸化反応という共通する化学反応メカニズムによる処理が行われている。(主張1)

引用発明の処理装置は,水熱反応のように高温高圧の環境下で使用するものであるが,処理装置をどのような温度で使用するかは,その装置を適用する被処理物や酸化剤の種類によって異なり,最適な反応状態で使用するという処理方法や処理条件に包含される事項である。(主張2)

②一致点の認定の誤り
一般に工場等から排出される工業廃水を処理する手段は「水処理」の技術分野に含まれるところ,引用発明の「工場等から排出される廃液中の有機物と水を混合して反応器に供給する被反応物」は,本願発明の「被処理水」に相当し,有機物を含む被処理水として分解処理に供されることから,引用発明の水熱反応装置は水処理装置の範疇にも含まれるものである。(主張3)

③相違点2の認定判断の誤り
原告は、本願発明が引用発明と技術分野が異なることを明確にした旨を主張した補正の却下について争っていない。よって、本願発明は、超臨界状態及び亜臨界状態を含む。(主張4)

(3)裁判所の判断
i.引用発明の認定について
進歩性の判断に当たり,引用発明の認定をするには,本願発明との対比に必要な限度で,引用例1の記載から当業者が把握することができる発明を認定すれば足りる。よって、本件審決の引用発明の認定自体に誤りはない。

ii.本願発明と引用発明の対比について
両者は、水の役割という点において、異なるものであり、技術分野においても異なるものということができる。
また、両者は、容器内の圧力状態及び温度状態が異なっている。

よって,引用発明の「水熱反応装置」は,水熱反応処理を行うから,本願発明の「水処理装置」と「処理装置」の点で共通するということができるとした本件審決の一致点の認定には,誤りがある。

iii.被告の主張について
イ.主張1に対して
「水処理」とは,被処理物である水に関する処理であり,用水処理や廃水処理(工業廃水処理及び汚水処理)を含む概念である。これに対し,「水熱反応」とは,超臨界状態(臨界点である375℃,22MPa以上)又は亜臨界状態(臨界点よりやや低い状態)の高温高圧状態の水の性質を利用した反応であり,「水熱反応処理」とは,上記のような水熱反応による被処理物の処理である。

また,本願発明は,化学反応を用いて被処理水に含まれる有機物を分解して被処理水を清浄にする処理装置であるのに対し,引用発明は,被処理対象としての「被処理水」という概念が存在しないのであるから,処理結果物として「被処理水」を清浄にするということを目的にしていない点で,両者は前提から相違している。

さらに,酸化反応の点でメカニズムが共通するというのは,反応機構の共通する部分を,具体的被処理対象物の状態を検討せずに不適切な上位概念化によって取り出したものにすぎず,同様の処理技術とはいえない。

そうすると,本願発明と引用発明とは,「処理装置」という点でも一致しているとはいえない。

ロ.主張2に対して
引用発明において、水熱反応とは、超臨界又は亜臨界状態の高温高圧の水の存在下に被反応物を酸化反応等させることを意味し、一般的にもそのような理解がされている。よって、被告の主張2は、前提を欠く。

ハ.主張3に対して
 「水処理」と「水熱反応処理」の意義は、上記イのとおりであり、引用発明の水熱反応装置は水処理装置の範疇に含まれるとは言えない。

ニ.主張4に対して
本件出願過程において,引用例1を引用した拒絶理由通知書に対し,原告は,引用発明は,超臨界又は亜臨界状態の高温高圧の状態であるのに対し,本願発明は,水の超臨界状態における反応ではなく,オゾンを利用した水処理装置であるなどとして,両者が異なることを意見書で説明した。しかるに,その意見書を採用できないとし,本願発明に,超臨界又は亜臨界状態において反応させる水処理装置を含むとして,拒絶査定を受けたことから,不服審判請求をするとともに本件補正を行ったものである。このような本件補正の経過に照らすと,原告は,もともと本願発明には超臨界又は亜臨界状態における反応は含まないという見解であったが,拒絶査定に対応して,いわゆる除くクレームにより,これを明確化したにすぎないものと解され,本件補正をしたことや補正却下の判断を争わなかったことから,直ちに本願発明が超臨界状態及び亜臨界状態を含むということはできない。
 



5.コメント

本願発明と、引用例1に係る発明とは、解決すべき課題や技術分野が異なるものであり、「処理装置」の点で一致するとした審決の判断は誤っていると判断された。

拒絶理由通知において、解決すべき課題や技術分野を過度に一般化・上位概念化して本願発明と引用文献との共通性を認定されることがあるが、そのような拒絶理由通知に対しては、本件を参考にした反論が可能と思われる。

2013/08/07

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