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51.【進歩性】平成23年(行ケ)第10098号 審決取消請求事件

【関連条文】特許法第29条第2項(進歩性)

1.事件の概要

 不服2011-17364号の審決の取り消しを求めた。



2.経緯

   平成14年11月28日 出願(特願2002-346052号)
  平成21年 2月17日 手続補正
  平成21年 7月 2日 拒絶査定
  平成21年 9月24日 拒絶査定不服審判の請求
  平成23年 2月 9日 拒絶審決  
  平成23年 2月22日 審決謄本送達

 

 

 



3.争点
(1)刊行物3を刊行物1に適用することの阻害要因
(2)刊行物2と刊行物3とを、刊行物1に同時に適用することの阻害要因

 



4.審決の概要

<本件発明>
ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置であって,
ストロボスコープ,
前記ストロボスコープの発光時および非発光時にそれぞれ対象物を撮影する撮像手段,
前記ストロボスコープの発光時の映像信号と非発光時の映像信号との差に基づいて,前記対象物の位置,大きさ,速度,加速度および運動軌跡パターンの情報の一部または全部を算出する第1の手段,および
前記第1の手段によって算出された前記情報に基づき情報処理を行う第2の手段を備え,
前記対象物は再帰反射体を含む,情報処理装置。

<相違点>
(1)ストロボスコープの発光時および非発光時にそれぞれ対象物を撮影する点
(2)対象物の位置,大きさ,速度,加速度および運動軌跡パターンの情報の一部または全部を算出する点
(3)前記対象物は再帰反射体を含む点

<刊行物1に記載の技術>
ストロボライト20を間欠的発光させて多重高速撮影した画像データをCPU3で画像処理するゴルフゲーム模擬装置の制御手段であって,
ストロボライト20,
前記ストロボライト20の間欠的発光が行われると同時にゴルフボール13とゴルフクラブ34を高速多重撮影するCCDカメラ14,15,
前記CCDカメラ14,15から出力された画像データを二値化して,前記ゴルフボール13とゴルフクラブ34の外形形状の認識を行ない,クラブヘッドの進入向き,打点位置,ボールスピード,飛出し角度を算出し,これらのデータからボール13のバックスピン量,サイドスピン量を算出し,ボールの弾道計算を行って飛行位置の計算を行い,さらに,ボールの各飛翔位置,落下位置,転がり,停止位置をCRTディスプレイ10に示されているコースマップ上に表示するCPU3,および,そのデータが送信され,スクリーン9上にボール弾道を表示するCPU5を備えるゴルフゲーム模擬装置の制御手段。

<刊行物2に記載の技術>
情報処理装置において,ストロボスコープの発光時および非発光時にそれぞれ撮影し,発光時の映像信号と非発光時の映像信号との差に基づいて情報の算出を行うこと

<刊行物3に記載の技術>
情報処理装置において,対象物が再帰反射体を含むことにより,撮像する画像から再帰反射体の像を容易に区別でき,対象物の指示位置の検出が容易になること

 


5.判決の概要

<争点1について>
刊行物1記載の発明のゴルフボール13又はゴルフクラブ34に再帰反射体を取り付けた場合に,ストロボライト20をどのように配置しても,再帰反射体からの反射光を2台のCCDカメラ14,15の両方に入射させることはできないし,また,再帰反射体を採用したことによって,対象物と他の画像とのコントラストが更に強調されるため,安価な構成で検出精度を高めることが可能となるという本願発明の効果(段落【0008】)も得られない。
また、各カメラに対応したストロボライトを設け,これらを同期させて発光させることは,情報処理を複雑にし,コストや消費電力を上げることになり,本願発明の技術思想に反することになる。さらに、刊行物1記載の発明は,プレイヤーの上方及び正面前方に設置された2台のCCDカメラを用いることを前提としている発明であって,CCDカメラを1台とすることを想定しているとはいえない。
したがって,刊行物1記載の発明に刊行物3記載の技術を適用することには,阻害要因があるといえる。

<争点2について>
刊行物2記載の技術は,対象物体となる手や身体の一部に色マーカーや発光部を取り付けることなく,簡易にジェスチャや動きを,入力できる直接指示型の入カデバイスが存在しなかったことを課題とするものであるから,色マーカーや発光部を取り付けることを想定していない。一方、刊行物3記載の技術は,入力手段(筆記用具)に再帰反射部材を取り付けるものである。
すなわち、刊行物2、3は,マーカー(再帰反射部材)の取付けについて相反する構成を有するものである。したがって,刊行物1記載の発明に,刊行物2記載発明と刊行物3記載発明を同時に組み合わせることについては,阻害要因があるというべきである。

 


6.判決の概要

(1)刊行物1には、刊行物3を適用することの積極的な阻害要因が記載されているとは言えない。しかしながら、刊行物1に刊行物3を適用することによって、(ⅰ)刊行物1の発明の構成要素の意義が没却される場合、(ⅱ)本願発明の技術思想に反する場合、(ⅲ)刊行物1の発明の前提を大きく変更する必要がある場合には、阻害要因と認定される可能性がある。

(2)主引例に複数の副引例を適用しようとする場合において、主引例と各副引例との間には阻害要因がなかったとしても、副引例同士が相反する技術を開示している場合には、当該副引例を同時に主引例に適用することが阻害される。

 

 

2015/09/07

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