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7.平成21年(行ケ)第10011号-拒絶審決取消事件-

【関連条文】特許法29条第2項

1.事件の概要

不服2007-14250号の審決の取り消しを求めた。
 


2.経緯

平成14年 3月27日 出願
平成18年11月 6日 拒絶理由通知
平成19年 1月29日 手続補正書提出
平成19年 3月27日 拒絶査定
平成19年 5月17日 拒絶査定不服審判提出
平成20年11月11日 審決(請求棄却)
 


3.争点

本願発明は、概略すると、減圧時に陥没変形を起こさないための複数の周状リブ(括れ部)を設けた合成樹脂製瓶体(ペットボトル等)である。

(1)補正後の本願発明の請求項1
「胴部(2)に2本以上の溝状の周状リブ(5)を周設し、該周状リブ(5)のうち、最上位の周状リブ(5)を胴部(2)の上端部の、略円錐台筒状の形状をした肩部(4)との境界近傍に、最下位の周状リブ(5)を胴部(2)の下端部に位置するように形成し、隣接する周状リブ(5)間の距離Hを0.2D~0.6Dの範囲として、少なくとも350mmHg(46.7kPa)の内部の減圧による、胴部(2)の一部の壁面の陥没変形不能に、胴部(2)の壁の面剛性を設定した、2軸延伸ブロー成形された合成樹脂製壜体。(ここで、Dは円筒状胴部の径または正多角形筒状胴部の対角線の長さをあらわす。)」

(2)審決が認定した引用例記載の発明(以下、引用発明と記す。)
「胴部の略中央部に括れ部を設け、胴部の上半部と下半部との夫々の全周に複数の凹条部を設け、上半部の凹条部の最上位の凹条部を肩部との境界近傍に、下半部の凹条部の最下位の凹条部を胴部の下端部に形成し、胴部の下半部には7又は8本の凹条部を設けた、内圧の低下に伴う減圧変形を小とし且つ座屈強度の高い構造の、二軸延伸ブロー成形されたポリエチレンテレフタレート製ボトル。」

(3)審決理由は以下の通りである。

つまり、
理由1:「少なくとも350mmHg(46.7kPa)の内部の減圧度を満たすようにするのは,胴部の下半部及び上半部に設けられた周状リブについて,本数,深さ,周状リブの間隔,肉厚等を適宜選択してなし得る程度のことにすぎない。」、

理由2:「周状リブの間隔,すなわち隣接する周状リブ間の距離を本願発明のように「0.2D~0.6D」と,D(省略)の関数で表すことは,当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度のことである。」

(4)以上より、争点は以下の通りである。つまり、本願発明は上記下線の部分(周状リブ間の距離を数式により限定している点)が引用発明と相違しているが、それでも引用発明に基づいて、特許法29条2項の規定により拒絶されるものであるか否か。


4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張 以下の点で、審決は相違点に対する容易想到性の判断を誤っている。
①周状リブの本数、深さ、間隔、肉厚等について
引用発明は,周状リブの本数,形状(深さ),間隔の組合せを発明の構成要件としている。引用例の記載によれば,そのうち周状リブの本数を7又は8本としたことに進歩性を見出したものといえる。よって、上記の理由1は誤りである。

②周状リブの間隔をDの関数で表すことについて
減圧強度とH/Dの関係は略反比例の関係にあり,これにより周状リブの間隔を,「0.2D~0.6D」と,Dのパラメータで表すことができ,ボトルの胴部の径寸法が変化しても,このDのパラメータを利用して,すみやかにかつ正確に周状リブの間隔を設定することができる。

これは,新規な技術的手段である。これに対し,引用発明においては,周状リブの本数の設定は,ボトルに対して行った試験の結果に基づいて行われているが,この試験の結果は試験されたサイズのボトルにだけ適用され,異なるサイズのボトルに対しては別個に試験を行う必要があり,周状リブの本数決定に過大な手間と経費を必要とする。したがって,周状リブの間隔を「0.2D~0.6D」と,Dの関数で表すことは,当業者が必要に応じて適宜採用し得る程度のことではない。よって、上記の理由2は誤りである。

(2)被告の反論
①周状リブの本数、深さ、間隔、肉厚等について
 熱充填した場合に,どの程度の内部の減圧度となるかは,壜体の容量,充填する液体の量,充填後に壜体内に残る空隙の量などによって相違するものであるが,壜体の容量その他の事項は,壜詰飲料等を製造する者と壜体を製造する者とが,商品計画等に基づいて適宜決定すべき事項といえる。

②周状リブの間隔をDの関数で表すことについて
「周状リブの間隔を0.2D~0.6Dと,Dの関数で表すこと」は,周状リブの形状や壜体の肉厚等について特定しない以上,胴部の形状を工夫することにより胴部の減圧強度を上げるという本願発明の目的との関係で,技術的な意味を有しない。

(3)裁判所の判断
①周状リブの本数、深さ、間隔、肉厚等について
本願発明は,「少なくとも350mmHgの内部の減圧」を満たすものとされているところ,これは,本願明細書の段落【0012】の「・・本発明は,・・・変形パネル壁を形成することなく,熱充填,あるいはレトルト処理後に発生する減圧状態によっても胴部の一部に陥没変形等の不正変形が発生しないように胴部の形状を見出すことを技術的課題とし,減圧による変形が抑制され,座屈強度が高いと共に,外観体裁の良い壜体を得ることを目的とする。」との記載に照らせば,熱充填又はレトルト処理後に発生する減圧状態によっても胴部の一部に陥没変形等の不正変形が発生しない条件を特定したものと解される。しかし,合成樹脂製壜体を熱充填又はレトルト処理した場合に,壜体内部に一定の減圧は,必然的に生じるから,減圧に耐え得るように周状リブについて本数,深さ,周状リブの間隔,肉厚等を決定することは当業者が技術常識に照らして適宜選択してなし得るというべきである。

②周状リブの間隔をDの関数で表すことについて
周状リブの間隔Hは減圧強度と反比例の関係にあるとはいえるが,上記本願明細書の記載を参酌しても,H/Dが減圧強度と略反比例の関係にあるということはできない。よって、原告の主張は理由がない。

本願明細書において,周状リブの間隔Hを「0.2D~0.6D」(Dは径寸法)とすることについて,格別な技術的意義を有することについての記載ないし示唆はない。また,前記のとおり,胴部の面剛性による壜体の減圧強度は,周状リブの深さや肉厚など他の要素の影響を受けるものであることに照らすならば,周状リブの間隔を「0.2D~0.6D」と表すことに技術的な意義を見出すことはできない。


5.コメント

本願はいわゆるパラメータ特許に分類されると考えられる。原告は、周状リブの間隔Hを「0.2D~0.6D」とすることで、すみやかにかつ正確に周状リブの間隔を決定することができると主張しているが、裁判所は、周状リブの間隔は当業者が適宜選択できるものであると判断している。

通常、適切な強度を得るための数値範囲は、力学の公式等に基づき、計算により求めることができる。

そのため、本願における周状リブの間隔に関する限定は、当業者であれば力学の公式から容易に導くことができるものであり、本件における裁判所の判断は理解できる。

本件は、肉厚等の他の要素が考慮されていない点、減圧強度とH及びDの関係が誤って主張されている点等、原告側の不備が多く、その点を指摘されているが、仮に、肉厚等の他の要素が考慮され、原告の主張の通り、減圧強度とH/Dの関係が略反比例の関係にあり、それが明細書に記載されていたとしても、原告の請求が認められることは難しいだろう。

数値限定が特許されるためには、その数値範囲に於いて、予測できない顕著な効果が得られることが必要である。しかし、一般に、力学分野では、条件に適う構造、大きさ、材質等の殆どの要素は予め計算により決定することが可能であり、数値限定により特許を取得するのは困難であると考えられる。
 

2013/06/27

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