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判例研究(水曜会)
46.【事件】平成24年(行ケ)第10165号 -審決取消請求事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.事件の概要
不服2011-17364号の審決の取り消しを求めた。
2.経緯
平成22年11月30日 出願(特願2010-266183号)
平成23年 3月 8日 手続補正
平成23年 6月14日 拒絶査定
平成23年 8月10日 拒絶査定不服審判の請求&手続補正
平成24年 3月22日 補正却下&拒絶審決
平成24年 4月 6日 審決謄本送達
3.争点
静止摩擦係数の範囲を定めた意義
4.審決の判断
<本件発明>
表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーがポップアップ方式で折り畳まれて略直方体の収納箱に収納されたティシュペーパー製品であって,
前記ティシュペーパーは,薬剤含有量が両面で1.5~5.0g/㎡であり,
2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が10~25g/㎡であり,
2プライの紙厚が100~140μmであり,(相違点1)
前記収納箱は,上面に,その長辺方向に平行に開口を有する紙箱よりなり,前記開口は収納箱内面に貼付されたフィルムにより被覆され,前記フィルムは前記開口に長辺方向に平行なスリットを有し,
前記フィルム横方向とティシュペーパー表面のシート取出し方向との静摩擦係数が0.20~0.28であり,(相違点2)
上層から1組目から5組目までの計5組,及び11組目から15組目までの計5組の取り出し抵抗値が70gf以下である,(相違点3)ことを特徴とするティシュペーパー製品。
<引用例1の記載>
(1)ティシュペーパーは二枚重ねでもよいし、・・・(0015)。
(2)保湿ティシュペーパーは、それよりも坪量を高め、好ましくは、15g/㎡がよい。・・・(0016)。
(3)保湿剤は、ティシュペーパー100質量部に対して7.6~10.6質量部含有するように・・・(0026)。
(4)図3には、上面の長辺方向に平行に開口を有する箱が開示されている。
<引用例2の記載>
(1)一般に、ティシュペーパーは、一箱当たり2枚1組で200組(すなわち400枚)の束を圧縮した状態で収納箱に収納されており、保存中に弾性復元力によりティシュペーパーが膨らみ、収納箱を押し上げる傾向にあり、・・・(0004)。
(2)本発明は、・・・収納箱からの取出し性が良好で、柔らかく、手触り感が良いティシュペーパーを提供するものである(0006)。
(3)・・・ティシュペーパーは、セルロースパルプを主原料としてなり、収納箱を形成する板紙とのJIS K 7125で規定する静止摩擦係数が0.4~0.5であり、・・・(0013)。
5.裁判所の判断
(1)静止摩擦係数の意義
引用例2は,ティシュペーパーの取出し性の改善を目的とする点では本件補正発明と共通するものの,ティシュペーパー束が圧縮されていることを前提とするもので,ティシュペーパー束が圧縮されていないことを前提とする本件補正発明と,前提において相違する。そして,このような前提の相違に起因して,両者は,ティシュペーパーの取出しを妨げる静摩擦力の発生メカニズムが相違し,その大きさも異なるものである。
そうすると,静摩擦力を規定する静摩擦係数についても,引用例2における板紙とティシュペーパーとの静摩擦係数の範囲を定めた意義は,本件補正発明におけるティシュペーパーとフィルムとの静摩擦係数の範囲を定めた意義とは全く異なるものである。
よって、引用発明に引用例2の記載を組み合わせて本件補正発明を導き出すことは、困難である。
(2)本件補正発明に係るティシュペーパー束が圧縮されていないことの根拠
・実施例3~7において、「窓フィルムとウェブの間隙」が1~3mmである。
・実施例1、2において、「箱高さ」及び「ウェブ嵩」の数値が一致している。
・表1にティシュペーパー束を収納箱よりも高くする実施例は挙げられていない。
・表1及び表2には、収納箱の静摩擦係数についての記載がない。
6.コメント
裁判所は、引用例2に係る発明はティッシュペーパーが圧縮されていることを前提としているのに対して、本願は、そうではないとしている。
しかしながら、本願の請求項には圧縮の有無については記載されておらず、圧縮されている構成も含むのではないかとも考えられる。
また、裁判所は、引用例2に係る発明と本願発明とでは静止摩擦係数の意義が異なるとしているが、本願の静止摩擦係数は臨界的意義に乏しく、進歩性を有するものとしてもいいのかは疑問が残る。