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13.【事件】平成21年(行ケ)第10361号-審決取消請求事件-

【関連条文】特許法第29条第2項

1.事件の概要

不服2007-28437号の審決の取り消しを求めた。
 


2.経緯

平成11年11月22日 出願(特願平11-331836号)
平成19年 4月 3日 拒絶理由通知
平成19年 5月30日 手続補正
平成19年 9月18日 補正却下
平成19年 9月18日 拒絶査定
平成19年10月18日 拒絶査定不服審判請求
平成21年 7月14日 手続補正
 


3.争点

補正後の発明(以下、本願発明と記す。)が、特許法29条2項により特許を受けることができるか否か。

<請求項1の記載>
被評価物の表面を水平面に対して特定の角度に傾斜するように固定し,油脂とカーボンブラックとを有する特定量の擬似油汚れを該被評価物の表面に滴下し,続いて特定量の水を該擬似油汚れよりも上方の該被評価物の表面に特定の高さから滴下して,該擬似油汚れの残留状態により該被評価物の耐油汚れを評価することを特徴とする耐油汚れの評価方法。
 


4.結論及び理由のポイント

(1)原告の主張
審決には・手続上の瑕疵(取消事由1)・相違点(い)に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2)がある。
※取消事由1は判決文で触れられていないため、省略する。

① 引用刊行物Cの汚れ除去性の「評価」に当たっては,乾燥工程を経由した技術事項のみが記載されている。これに対して,本願発明は,試験表面(試料)が油を含む汚れを落とし易い特性を持っているかどうかを評価する発明であって,「耐油汚れの評価」に当たっては,「直ちに水洗する操作」をすることを必須とするものである。

② 引用刊行物Cは、特定量の水を特定の高さから滴下することを特定するものではない。  

③ 本願発明は,被評価物の表面に油汚れが付着した場合に,水洗によってその油汚れをどれだけ容易に除去することができるかを安価に評価しようとすることを解決課題とする発明である。

(2)被告の主張
① 引用発明における擬似汚れの滴下後の水洗除去処理について,乾燥することなく直ちに水洗することは,当業者が適宜なし得る設計事項であった。

② 被評価物の斜面に存在する擬似油汚れを除去するために水を滴下する場合に,擬似油汚れよりも上方の被評価物表面に滴下することも,当然に行われる手法であって,本願発明の重要な部分であるとはいえない。

(3)裁判所の判断
① 引用刊行物Cからは,耐油汚れの評価に当たって,時間,労力,価格を抑え,手順を簡略化しようとする本願発明の解決課題についての示唆はない。引用刊行物C記載の発明における,「乾燥工程を経由しない滴下」という操作は,本願発明における同様の操作と,その目的や意義を異にするものであって,引用刊行物C記載の発明は,本願発明と解決課題及び技術思想を異にする発明である。

② 引用刊行物A記載の発明は,擬似油汚れについて特定量を滴下し,乾燥工程を設けないとする相違点(い)に係る構成を欠くものである。同発明は,本願発明における時間,労力,価格を抑えることを目的として,手順を簡略化しようとする解決課題を有していない点で,異なる技術思想の下で実施された評価試験に係る技術であるということができる。このように,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づく引用刊行物A記載の発明を起点として,同様に,本願発明における解決課題とは異なる技術思想に基づき実施された評価試験に係る技術である引用刊行物C記載の発明の構成を適用することによって,本願発明に到達することはないというべきである。  

③ (進歩性の判断には)主観や直感に基づいた判断を回避し,予測可能性を高めることが,特に,要請される。その手法としては,従来実施されているような手法,すなわち,当該発明と出願前公知の文献に記載された発明等とを対比し,公知発明と相違する本願発明の構成が,当該発明の課題解決及び解決方法の技術的観点から,どのような意義を有するかを分析検討し,他の出願前公知文献に記載された技術を補うことによって,相違する本願発明の構成を得て,本願発明に到達することができるための論理プロセスを的確に行うことが要請されるのであって,そのような判断過程に基づいた説明が尽くせない限り,特許法29条2項の要件を充足したとの結論を導くことは許されない。
 


5.コメント

本願発明は、周知の方法から乾燥工程を省いたものであり、一見すると進歩性の根拠には乏しいものと考えられる。しかし、裁判所は、本願発明における「乾燥工程を経由しない滴下」という点を根拠に審決の判断に誤りがあると認定した。

裁判所は、明確な論理プロセスに基づかない審決の判断を問題視しており、今回の判決は、十分な根拠を示さずに発明内容を設計事項と認定する最近の審査の流れに対する警告とも考えられる。

従って、特許庁が明確な論理プロセスさえ行えば、本願は再度拒絶される可能性が高いと考えられる。

今回の判決は出願人寄りの判決であり、特に主観に基づく進歩性判断は許されないと明確に述べられている点は評価できる。

しかし、逆に、主観的には誰の目にも容易である発明であっても、進歩性を否定する論理の構築が困難であれば、それを拒絶することはできないことになる。

例えば、類似の発明が発見できないもの等である。そのような出願がどのように判断されるのかについては今後の判決に注目したい。

2013/06/27

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