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56.【進歩性】 平成25年(行ケ)第10214号 審決取消請求事件


【事  件】 平成25年(行ケ)第10214号 審決取消請求事件

平成26年3月25日判決言渡

 

【関連条文】 第29条第2項(進歩性)

 

1.事件の概要

 無効2012-800049号の審決の取り消しを求めた。

 

2.経緯

平成21年 5月22日 特許登録

平成24年 4月 6日 無効審判請求(進歩性)

平成25年 3月28日 訂正請求

平成25年 7月10日 無効審決

 

3.争点

 本件発明が進歩性を有するか。

 

4.本件発明

<無効審判での訂正後の請求項1>

ソレノイド駆動ポンプのポンプを駆動するソレノイド(8)に、時間が一定で且つ周期的に発生される駆動パルスに応じて駆動電圧を周期的に供給して、該ソレノイドを駆動する駆動回路(7)と、

90~264Vの間で電圧が異なる複数の交流電圧の電源(1)のうちの任意の交流電圧の電源から整流されて駆動回路に提供される直流電圧を分圧して検出する検出手段(5)と、

該検出手段で検出した直流電圧を一種の制御回路に対応した所望の直流電圧と比較し、且つ駆動回路に提供された直流電圧を所望の直流電圧に変換すべく該駆動回路に制御信号を供給する演算処理部(6)とを具備し、

電源の電圧に関わりなく前記所望の直流電圧を駆動電圧としてソレノイドに供給するソレノイド駆動ポンプの制御回路であって、

前記制御信号は、駆動回路に供給される直流電圧をスイッチングし、前記駆動パルス内におけるオン・オフのデューティを制御する信号であることを特徴とするソレノイド駆動ポンプの制御回路。

 

5.審決の理由

本件発明は,特開平7-46838号公報(刊行物1)記載の発明及び特開平5-170038号公報(刊行物2)記載の発明等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

 

<刊行物1発明の内容>

トランスの一次コイルに駆動電圧を供給して該一次コイルを駆動するスイッチング回路と、電圧が異なる交流電圧の電源が整流回路を介してスイッチング回路に提供される入力電圧を検出し、検出した検出電圧を一種のDC/DCコンバータに対応した所望の直流電圧と比較し、且つスイッチング回路に提供された入力電圧を所望の直流電圧に変換すべく該スイッチング回路に制御信号を供給する動作モード切換回路とを具備し、交流電圧が異なっても前記所望の直流電圧を駆動電圧としてトランスの一次コイルに供給するトランスの制御回路であって、前記制御信号は、スイッチング回路に提供される入力電圧をスイッチングし、オン・オフのデューティを制御するPWM信号であるトランスの制御回路。

 

<一致点>

「コイルに駆動電圧を供給して該コイルを駆動する駆動回路と、電圧が異なる交流電圧の電源から整流されて駆動回路に提供される直流電圧を検出する検出手段と、該検出手段で検出した直流電圧を一種の制御回路に対応した所望の直流電圧と比較し、且つ駆動回路に提供された直流電圧を所望の直流電圧に変換すべく該駆動回路に制御信号を供給する演算処理部とを具備し、電源の電圧に関わりなく前記所望の直流電圧を駆動電圧としてコイルに供給するコイルの制御回路であって、前記制御信号は、駆動回路に提供される直流電圧をスイッチングし、オン・オフのデューティを制御する信号であるコイルの制御回路。」である点。

 

<相違点1>

制御の対象に関し、本件発明がソレノイド駆動ポンプのソレノイドであるのに対し、刊行物1発明がトランスの1次コイルである点。

 

<相違点2>

使用可能な交流電圧の範囲に関し、本件発明が「90~264V」であるのに対し、刊行物1発明には具体的な限定が無い点。

 

<相違点3>

検出手段に関し、本件発明が「直流電圧を分圧して検出」であるのに対し、刊行物1発明にはこのような特定が無い点。

 

<相違点4>

オン・オフのデューティを制御する信号に関し、本件発明が「駆動パルス内におけるオン・オフのデューティを制御する信号」であるのに対し、刊行物1発明が「オン・オフのデューティを制御するPWM信号」である点。

 

6.原告の主張

<取消事由1>

刊行物1発明は、本件発明とは、技術分野も課題も全く相違しており、本件訂正発明を想到する動機付けがないか、本件発明を想到することに阻害要因があるため、刊行物1発明を主引用発明として本件発明が容易想到であると判断したことは誤りである。

(1)本件発明は、「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」の発明であるのに対し、刊行物1発明は、「携帯型...電子機器」の発明であるため、本件発明と刊行物1発明の間には、技術分野の関連性がない。

(2)本件発明の課題は、「電圧が異なる複数の交流電圧の電源における電圧の異なりに対応しようというもの」であるのに対し、刊行物1発明の課題は、「形態が異なる電源(電池パック,AC電源,

車載バッテリ)のいずれにも対応可能、という意義」である。

 

<取消事由2>

刊行物1発明には、上記「刊行物2記載の事項」等を適用する動機付けがないか、これを適用することに阻害要因があるため、審決は、相違点1及び4に係る判断を誤っている。

(1)ソレノイド駆動ポンプを含むポンプの技術分野全般において、本件特許の出願当時、電圧が異なる複数の交流電圧の電源における電圧の異なりに対応しようという課題は存在していなかった。

(2)刊行物1発明は「パソコン」であるのに対し、刊行物2発明は「燃料ポンプ」であり、技術分野が異なる。また、刊行物1発明の課題は、「形態が異なる電源(電池パック,AC電源,車載バッテリ)への対応」であるのに対し、刊行物2発明の課題は、「電源電圧の変動への対応」であり、課

題が相違する。

 

<取消事由3>

相違点2の認定は誤りである。刊行物1発明は、形態が異なる電源(電池パック、AC電源、車載バッテリ)への対応であり、本件発明のように、異なる交流電圧への対応ではない。したがって、審決における、「90~264V間で電圧が異なる複数の交流電圧のうち任意の交流電圧の電源とすることは、当業者であれば適宜なし得ることである」との判断は誤りである。

 

7.被告の反論

<取消事由1>

(1)技術分野について、本件発明は、電源電圧の変換回路に関するものであり、刊行物1発明は、電源電圧の変換回路に関するものであるから、技術分野は同一である。

(2)課題について、刊行物1には、対応可能な「様々な電源」として、複数の異なる電源電圧の具体例が記載されており、刊行物1発明の課題が、電圧が異なる複数の電源に対応するものであることは明らかである。

 

<取消事由2>

(1)ポンプが「固定式」であったとしても、「電源電圧が異なる環境」が生じることに相違はなく、電源電圧が異なっていても、同じ機器を使用できるように対処しようとする課題が存在しなかったとはいえない。

(2)刊行物1発明の適用対象が電子機器(パソコン)であって,刊行物2発明の適用対象が燃料ポンプであったとしても、これは、周知な汎用技術の適用対象が異なっているというにすぎず、このことが、両者の技術分野が異なることを示すものとはいえない。

 

<取消事由3>

刊行物1発明の課題は、電圧が異なる複数の電源に対応可能とすることであるから、審決の上記認定に誤りはない。

 

8.裁判所の判断

相違点1に係る審決の判断には誤りがあり、原告主張の取消事由1及び取消事由2(ただし、相違点1の判断の誤りに係る部分)には理由があると判断する。

(1)刊行物1発明は、電子機器の技術分野に属するものであるのに対し、本件発明はポンプの技術分野に属するものであるから、両者の技術分野は明らかに相違する。

(2)「交流電圧が異なっていても同じ機器を使用できるようにするとの課題は周知の課題」としているが、これは、技術分野を特定しない交流電源を用いる電気機器における課題であって、ポンプの技術分野における課題ではない。

(3)刊行物1発明がポンプにも適用できる旨の記載も示唆もない。したがって、刊行物1発明をポンプに適用しようとする動機付けはない。

 

したがって、本件発明が容易想到であり、本件特許を無効とすべきものとした審決の判断は誤りである。

2018/06/20

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