HOME» 判例研究(水曜会) »9.平成21年(行ケ)第10125号-拒絶審決取消事件-
判例研究(水曜会)
9.平成21年(行ケ)第10125号-拒絶審決取消事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.事件の概要
特許庁が不服2004-12734号事件について平成20年12月22日にした審決の取り消しを原告が求めた。
2.経緯
平成10年 2月26日 優先権主張を伴う国際特許出願(第1国はドイツ)
平成16年 3月11日 拒絶査定(進歩性の欠如)
平成16年 6月21日 拒絶査定不服審判
平成19年 7月30日 審決(審判の請求は成り立たない)
平成19年12月11日 審決取消訴訟の提起(行(ケ)第10412号)
平成20年 8月26日 判決(審決を取り消す旨の判決)→審判に差し戻し
平成20年12月22日 審決(審判の請求は成り立たない)(進歩性の欠如)
3.争点
(1)審判(平成20年12月22日)における判断
本願発明は、引用文献の記載及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
【補正後の本願発明の請求項1】
「上端が略水平方向に移動可能な垂直方向に配設された、上端にアームレストを有する弾性的支柱を備え、該アームレストは前記弾性的支柱が動くにつれて略水平方向に移動可能であり、前記弾性的支柱はロッド形の単一の支承要素からなっていて前記アームレストを弾力をもって支承するためのばねを有し、床から伸びていることを特徴とするコンピュータ作業場用の可動アームレスト」
【引用例1記載の発明】
「弓型腋下受具の両端に支棒を設け、それにスプリングを巻き上に出し、そこにT型上部を腋下支と我部をパイプとしてスプリングに嵌め込み、棒の中位迄カバーした構造よりなる座軽快具」
即ち、本願発明が、引用文献の記載及び周知技術に基づいて容易に発明することができたか否かが争点となった。
また、差し戻された審判では、審査において挙げられていた副引用例を主引用例として再度、進歩性を否定する審決がされたが、この審判において、新たな拒絶理由通知は行われなかった。
ここに手続違背が無いかがもう一つの争点となった。
4.結論及び理由のポイント
(1)原告の主張
①審決において、引用発明に記載の支棒・パイプ・スプリングから成る支柱と、本願発明の弾性的支柱とが一致すると認定されたが、この認定は誤りである。
②審査及び前審決では、引用例1は周知技術の一例として副引用例とされたが、本件審決では主引用例として用いられている。従って、本審決において拒絶理由を通知して意見書の提出機会を付与しなかったのは、特許法第159条第2項の規定に違反する。
※特許法第159条第2項:(第50条及び第50条の2の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。)
(2)被告の反論
①本願発明の弾性的支柱は、その弾性により水平方向に移動可能である。一方、引用発明に記載の支柱は撓むことができる。撓むことにより水平方向に移動可能である。従って、効果が同じであり、引用例1の支柱と本願発明の弾性的支柱とは一致する。
②原告(出願人)は、先の審決時における主引用文献と副引用文献(本裁判における引用例1)とを同等とみなして反論している。原告が主引用文献と副引用文献とを同等と見なしている以上、どちらを主引用文献とみなしても差し支えない。
(3)裁判所の判断
①本願発明の弾性的支柱は水平方向に移動可能であり、引用例1には支柱が水平方向に移動するかどうかの記載はない。従って、本願発明の弾性的支柱が引用例1に記載の支柱に相当するとは言えず、被告(特許庁)の主張には理由がない。
②手続違背が存在する(理由は述べられていない)
5.コメント
本件では、特許庁の審決が2回に渡って裁判で取り消された。
特許庁は、2度目の審決の際、審査及び前審判での副引用例を主引用例とし、進歩性を否定する審決をしたが、その際に、拒絶理由を通知して意見書の提出機会を付与しなかったことに手続違背があるとの判断がされている。
副引用例自体が審査段階で出願人に示されたものであっても、そこに新たな論理を付与し、拒絶理由とする場合は、意見書による反論の機会が与えられなければならない旨が判示されたといえる。
また、2度目の審決で、特許庁は、引用例1の記載から、腋下支が略水平方向に移動可能であることは明らかであるとし、引用発明の認定を行った。
しかし、裁判所は、引用例1は腋下支が略水平方向に移動可能であることを示すものではないとして、審決による引用発明の認定に誤りがあると判断した。
引用例1の図面には、支棒が使用者の体重を支えて湾曲した状態の座軽快具が示されており、この構成を見ると、支棒の湾曲により、腋下支が略水平方向に移動することも可能である。
恐らく、特許庁は、構成上必然的に導かれる効果を技術的思想に含め、引用発明の認定を行ったと考えられる。
一方、裁判所は、たとえ構成上必然的に導かれる効果であっても、出願人が発明の効果として主張していないものは技術的思想ではないという立場で、引用発明の認定を行ったと考えられる。
仮に、構成上必然的に導かれる効果を技術的思想に含めて引用発明を認定すると、汎用的な使用が可能である発明は、出願時点で考慮されていなかった様々な使用法に基づき、拒絶の引例となる恐れがあり、裁判所の判断は妥当であると考えられる。