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58.【新規事項追加】 平成25年(行ケ)第10346号 審決取消請求事件


58.【新規事項追加】 平成25年(行ケ)第10346号 審決取消請求事件

 

【関連条文】 特許法第126条第5項(新規事項追加)

 

1.事件の概要

 無効2012-800211号の審決の取り消しを求めた。

 

2.経緯

平成15年 1月14日 出願(特願2003-040391号)

平成20年 2月 8日 設定登録(特許第4074935号)

平成24年12月26日 特許無効審判の請求(無効2012-800211号)

平成25年 3月25日 訂正の請求

平成25年11月28日 審決謄本送達(訂正認容、無効棄却)

平成25年12月26日 審決取消訴訟提起

 

3.争点

 本件訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものか否か。

 

4.審決の理由の要旨

(1)訂正後の請求項1の発明

「・・・(前略)・・・

第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に、中立線を残してその両側に、前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく、各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程と、第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に、中立線を残してその両側に、前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく、各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程と、

 ・・・(中略)・・・と、を少なくとも有し、

 ・・・(中略)・・・溝に配置された前記電極とが接続されていて、

前記水晶発振器は前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく、かつ、基本波モード振動のフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい音叉形屈曲水晶振動子を具えて構成されていて、

前記音叉形屈曲水晶振動子が水晶ウエハ内に形成され、前記音叉形屈曲水晶振動子の基本波モード振動の基準周波数が32.768kHzで、前記音叉形屈曲水晶振動子の発振周波数が前記基準周波数に対して、-9000PPM~+5000PPMの範囲内にあるように水晶ウエハ内で周波数が調整されることを特徴とする水晶発振器の製造方法。」

(2)本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法134条の2第1項ただし書、及び同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するものである。

  <ア 訂正事項1>

本件特許発明の「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」を、

「第1音叉腕の上下面の少なくとも一面に、中立線を残してその両側に、前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく、各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。

  <イ 訂正事項2>

本件特許発明の「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に溝を形成する工程」を、

「第2音叉腕の上下面の少なくとも一面に、中立線を残してその両側に、前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく、各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝を形成する工程」と訂正するもの。

 

5.原告の主張

(1)音叉腕の中立線を含めた部分幅W7は0.05mmより小さく,又,各々の溝の幅は0.04mmより小さくなるように構成する態様(本件特許明細書【0041】),及び、水晶発振器に用いられる音叉形状の屈曲水晶振動子の基本波モード振動での容量比r1を2次高調波モード振動の容量比r2より小さくなるように構成する態様(本件特許明細書【0043】)は,それぞれが独立した態様であって,両方の構成を有する態様については直接的には記載されていない。

 適法な訂正とは,「当初明細書に記載された事項」及び「当初明細書等の記載から自明な事項」の範囲の訂正であるところ,「当初明細書等の記載から自明な事項」とは,これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項であることが必要である。

 しかるに,【0041】の記載と,【0043】の記載は,審決も認めるとおり「独立した態様」であるから,このような組み合わせによって得られる態様は,「これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然」というものでないことは明らかである。

 したがって、訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たる。

 

6.被告の主張

(1)「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,以下のとおり,本件特許明細書に記載されているに等しい。

 すなわち,本件特許明細書【0041】には,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝」を設ける場合にも,M1をMnより大きくすることができることが記載されている。

 一方、本件特許明細書【0026】には,「フイガーオブメリットMiは屈曲水晶振動子の品質係数Qi値と容量比riの比(Qi/ri)によって定義される。即ち,Mi=Qi/r1で与えられる。」ことが記載されており,これは,M1=Q1/r1,M2=Q2/r2の関係にあることを意味している。

 そして,音叉形水晶振動子においては,一般的に,基本波モード振動の品質係数Q1が2次高調波モード振動の品質係数Q2よりも小さいことは,当業者によく知られていることである(甲46)。

 そうすると,M1=Q1/r1,M2=Q2/r2の関係にあり,かつ,音叉形水晶振動子においては一般的にQ1<Q2の関係にあるのであるから,M1>M2の場合には,必然的にr1<r2となる。

 したがって,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるような溝」を設けた場合において,基本波モード振動の容量比r1と2次高調波モード振動の容量比r2の関係が,r1<r2となることは,本件特許明細書に記載されているに等しいといえる。

 

7.裁判所の判断

(1)同法134条の2第9項において準用する同法126条5項でいう「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面」の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。

 本件特許明細書【0041】と【0043】の各記載に係る構成の態様は,それぞれ独立したものであるから,そこに記載されているのは,各々独立した技術的事項であって,これらの記載を併せて,本件追加事項が記載されているということはできない。また,その他,本件特許明細書等の全てにおいても,本件追加事項について記載はないし,本件追加事項が自明の技術的事項であるということもできない。

 そうすると,本件追加事項の追加は,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものというべきである。

 したがって,訂正事項1及び2の追加は,新規事項の追加に当たり,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということはできない。

(2)仮に,本件特許明細書の記載内容を手掛かりとして,当業者が本件追加事項に想到することが可能であるとしても,そのことと,本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,本件追加事項が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかとは,別の問題である。そして,「中立線を残してその両側に,前記中立線を含めた部分幅が0.05mmより小さく,各々の溝の幅が0.04mmより小さくなるように溝が形成された場合において,基本波モード振動の容量比r1が2次高調波モード振動の容量比r2より小さく,かつ,基本波モードのフイガーオブメリットM1が高調波モード振動のフイガーオブメリットMnより大きい」という事項については,本件特許明細書等に記載があるとは認められず,また,審決の上記説明振りに照らしてみても,本件追加事項が自明な事項とはいえず,本件特許明細書等の記載の範囲を超えるものであることは明らかというべきである。

 以上のとおり,訂正事項1及び2の追加は,特許法134条の2第1項ただし書及び同条9項が準用する同法126条5項に違反し,不適法であるから,原告主張の取消事由1は理由があり,審決は違法であり,取消しを免れない。

 

8.考察

(1)訂正の請求(訂正審判)では、願書に添付した明細書に各々独立に記載された技術的事項であっても、これらを組み合わせた技術的事項が自明な事項といえなければ、新たな技術的事項を導入するものとされることがある。このため、このような想定され得る組み合わせについては、当初明細書に記載する必要がある。

 

2018/11/13

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