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1.特許庁の裁量行為について争われた事例

1.平成9年(行コ)第58号  

出願人である原告が、特許出願に対する拒絶理由通知がなされ、その指定期間経過後に特許 査定がなされたことにより、特許査定謄本送達後に、その出願を基礎とする分割出願が不適法 なものとしてなされた不受理処分の取り消しを求めた事例である。  

原告は、審査官の手続的な裁量行為によって、出願人が本来有する法的利益(分割出願の 利益)を奪うことは、特許法の明文の規定がなければ許されないと主張したが、裁判所は、 指定期間の経過を待たなければ特許査定ができないとする規定が法に存在しない限りでは、 出願人の与り知らぬ審査官の時期的裁量を伴う手続行為によって、補正及び分割出願の終期 が定まることは法の予定していることであり、また、原告が分割出願の可能性を考慮していたのであれば、指定期間を利用して最適の手段を採ることができたはずとして、原告の主張は 採用に値しないと判示した。
 


2.平成15年(行ケ)第90号  

特許権者である原告が、1つの特許に対して別個に請求された2つの無効審判のうち、一方 の無効審判事件において行われた手続が考慮されることなく、他方の無効審判事件について 審決がなされたことについて、審理不尽を理由として審決の取り消しを求めた事例である。  

裁判所は、同一の特許に対する無効審判を併合して審理するかどうか、別々に審理する場合 において、一方の審判事件において提出された攻撃防御方法を他方の審判事件において勘酌 等するかどうかは、担当審判官の裁量に委ねられているとして、そのことをもって審理不尽 により違法になるということはできないと判示した。
 



3.平成17年(行ケ)第10122号  

特許出願人である原告が、拒絶査定不服審判において、補正の機会を与えずに誤記を理由 として拒絶したことが法目的に反するとして、審決の取り消しを求めた事例である。  

原告は、審判の審理において補正の機会を与えるか否かは合議体の裁量行為であるが、特許 法の目的は発明を奨励することであるから、可能な限りその方向に努力すべきで、不明瞭な 記載を見つけて発明を葬ることは法の目的にかなうものではなく、補正の機会を与えるべき であると主張したが、裁判所は、当該不明瞭な記載は拒絶理由通知及び拒絶査定書において 指摘されており、審査及び審判を通じて3回の補正の機会があったにもかかわらず、原告は、 技術的に誤った認識の下、適切な補正を行わなかったために、拒絶理由を解消できなかった のであるとして、原告の主張は理由がないと判示した。
 


4.平成17年(行ケ)第10739号  

特許権者である原告が行った訂正審判請求に対して、特許無効審決の確定を理由に行った 却下審決の取り消しを求めた事例である。

原告が有する特許には、ほぼ同時期に2つの無効審判が請求され、一方の無効審判では無効 審決がなされて、それに対する審決取消訴訟が提起された。他方の無効審判は、特許庁が手続 の中止を行い、この中止は一方の無効審決に対する審決取消訴訟が提起されるまで維持され た。

これにより、原告は、他方の無効審判の審決(無効審決)がなされるまで、訂正審判の 請求ができない状況にあった。また、他方の無効審決がなされたときは、平成15年法改正 の施行後であったため、原告は、平成15年改正法126条2項により、訂正審判の請求時期 が、他方の無効審決に対する審決取消訴訟を提起してから90日以内に制限された。

しかし、 他方の無効審判の請求は平成15年改正法の施行前であったため、平成15年改正法181条 2項は適用されず、原告が請求した訂正審判は、独自に特許庁に係属した。

その訂正審判の 審理中において、一方の無効審判の審決が、上告棄却及び上告不受理の決定により確定した。 これに基づいて、特許庁が訂正審判の棄却審決を行った。この特許庁の判断は、昭和59年 裁判に沿うものであるが、原告は、本件事実経過の下では、前件審決の確定という偶然の事情 によって訂正の機会が封じられて、原告が確定的に特許権を喪失するという結論は不合理で あることを理由の一つとして主張した。

裁判所は、同一の特許に係る無効審判の取消訴訟と訂正審判とが同時に進行している場合 のそれぞれの審理の進め方は、それぞれの審理を担当する者の裁量と運用に委ねられている と解されるから、原告主張の事情をどの程度考慮するかも特許庁及び裁判所の裁量に任される というべきとして、原告の主張に理由がないと判示した。
 


5.検討

(1)特許庁が行った裁量行為を違法と認定する裁判例はない。

(2)出願人又は特許権者に対して補正・分割・訂正の手続的保護がまったく付与されなかった事例はない。

(3)補正・訂正の機会という手続的保護は少なくとも1回は付与されるが、 それ以上の機会付与は特許庁の自由裁量に委ねられていると思われる。

(4)審査・審判・裁判において審理の迅速化が図られている現状においては、補正・訂正はワンチャンスで結果を出すことが重要である。

 

2013/06/27

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