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判例研究(水曜会)
43.【事件】平成23年(行ケ)第10398号 -審決取消請求事件-
【関連条文】第29条第2項
1.事件の概要
不服2009-20849号の審決の取り消しを求めた。
2.経緯
平成20年 6月17日 出願(特願2008-157503号)
平成21年 6月11日 手続補正
平成21年 7月14日 拒絶査定
平成21年10月28日 拒絶査定不服審判の請求(不服2009-20849号)
平成22年 6月 7日 請求棄却審決
平成23年 3月17日 審決を取り消す旨の判決(知財高裁)
平成23年10月12日 請求棄却審決
平成23年11月 2日 審決謄本送達
平成23年11月25日 特許を受ける権利の譲渡(ホクコン→X)
3.争点
引用発明と周知技術とに基づき本願発明を想到するのは当業者にとって容易か否か
<本願発明(平成21年6月11日における補正後の請求項1)>
上部に被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある圧力容器と,前記圧力容器の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,前記圧力容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある水処理装置。
<引用発明(刊行物1に記載されていると認められた発明)>
側部に液体の供給口,底部に排出口が設けてあるオゾン反応タンク1と,オゾン反応タンク1の供給口には液体を供給する液体管路4が接続してあり,オゾン反応タンク1内部には,オゾンガスが供給されると共に供給口に連結したスプレーノズル2,3が設けてある反応装置。
<一致点>
被処理水の供給口,下部に排出口が設けてある容器と,前記容器の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,被処理水にオゾンガスが供給され,前記容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある水処理装置。
<相違点>(今回問題とする相違点2のみ記載)
本願発明では,「容器の供給口には被処理水を供給する管路が接続してあり,この管路にはオゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり,容器内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」のに対して,引用発明では,「オゾン反応タンク1(容器)の供給口には液体(被処理水)を供給する液体管路4(管路)が接続してあり,オゾン反応タンク1内部には,オゾンガスが供給されると共に供給口に連結したスプレーノズル2,3(噴霧装置)が設けてある」点
4.結論及び理由のポイント
(1)原告の主張
本願発明のエジェクターは,従来のエジェクターとは異なり,単に被処理水とオゾンとを混合させることだけではなく,被処理水とオゾンを混合して圧力容器にノズルで放出することによって圧力容器内のオゾンガス圧力を噴射した被処理水の圧力に依存させるものであるが,引用例には,本願発明のこのような新規な技術思想についての開示がない。
引用発明は,エジェクターを使用してオゾンガスを被処理水に溶解することを否定してオゾン容器内にノズルで被処理水を単に噴霧するとしたものであるから,エジェクターとノズルを組み合わせることはあり得ない。
(2)被告の反論
被処理水にガスを供給するにあたり,気液混合のためのエジェクターを管路に設けることは本件出願前周知の事項である。そうすると,引用発明について,被処理水にガスを供給するという点で共通する上記周知の事項を適用すること,すなわち,被処理水を供給する管路にエジェクターを設けることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。
原告は,引用発明においてエジェクターとノズルとを組み合わせることを想起できない旨主張する。
しかし、引用例には,溶液中でオゾンを目的物と反応させるためにオゾンガスを液体中に容易に溶解させるという課題を解決するにあたり,エジェクターのような複雑で高価な設備を用いずとも課題解決を図ることができる手段が開示されてはいるが,引用例では,エジェクターは,「複雑で高価な設備」とされているにすぎないものである。
→引用発明においてエジェクターの適用を阻害する事由はない。
(3)裁判所の判断
① 本件審決が認定したとおり,一般に,被処理水へのガスの溶解量を増やすために,容器内の気圧(ガス圧)を高くすることは,本件出願前周知の事項である。また,同様に,エジェクターが設けられた管路を圧力容器に接続することも,本件出願前周知の事項である。
② 引用発明は,接触反応器の構造が複雑で,しかも高価なエジェクターに替えて,エジェクターより接触反応器の構造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものであるから,スプレーノズルは,エジェクターの代替手段である。
そうすると,引用発明において,エジェクターを敢えて用いようとする動機付けがあるとはいえない。また,仮に,引用発明にエジェクターを適用する動機があるとしても,スプレーノズルがエジェクターの代替手段であるから,その場合は,引用発明におけるスプレーノズルに替えてエジェクターを適用することになるところ,引用発明には,本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動機付けがあるとはいえない。
③ 本願発明は,エジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することによって,エジェクターでオゾンと被処理水を混合し,圧力容器内に気体オゾンを混合した被処理水を噴霧供給することで,圧力容器内の圧力を高圧にし,更に噴霧によってオゾンと被処理水の接触面積を大きくしてオゾンを被処理水に溶解させて有機汚染物を分解するものであり,それによって,オゾンが被処理水に効率よく溶解され,汚染水処理装置の処理能力が向上するという顕著な効果を奏するものである。
5.コメント
(1) 引用発明に周知技術を適用するにも動機付けが必要であるという論点である。本裁判例では、引用例中に適用する周知技術が当該引用例中に記載(引用例の図4)された場合であっても、動機付けがない限り、引用発明に周知技術を適用して本願発明を想到するのは当業者に困難であるとしている。
(2) 本願の請求項は、物の発明にしては構成の限定が不十分であるように思われる。私見であるが、本願発明は、エジェクターで隔てられた両側の管路及びオゾン発生装置の3つの圧力差を適正な値とすることにポイントがあるのではないだろうか。仮にそうだとすると、原告はその点を請求項に盛り込んでおくべきだったと考えられる。