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判例研究(水曜会)
4.【事件】平成19年(行ケ)第10019号-拒絶審決取消事件-
【関連条文】特許法第29条第2項
1.争いのある発明
特開2002-144159号
(1)請求項1
「側面の端部を切削加工する歯車にあって、 鍛造成形された歯車における歯筋方向の端縁角部に面取り部を鍛造手段にて形成しておき、 歯部全周と切削面との間に前記面取り部が少なくとも一部残されるように切削加工するこ とを特徴とする歯車の製造方法。」
(2)発明の目的
歯面にバリを有しない歯車を製造すること。
※歯筋方向の端縁角部に面取りを形成することによって、側面の端部を切削加工した 場合でも、歯面にバリが生じない。 (⇒面取り部にバリが届くが、歯面までは届かない。)
2.引用文献
特開昭62-207527号
(1)請求項1
「型鍛造により歯形を形成する際に、最終歯形寸法に対して0.1~0.5mmのとり代 と歯部の内・外径端面部に0.5~2mmの面取りを付与した歯形を有する中間製品を形成し、 次に該中間製品を歯切り加工により0.1~0.5mmのとり代を削り落として最終歯形 を形成することを特徴とするかさ歯車の製造方法。」
(2)目的
歯部の内・外径端面部に面取りを形成することによって、歯面を歯切り加工した場合に 生じるバリが内・外端部に突出しないようにすること。
3.拒絶理由
進歩性なし(特許法第29条第2項)。
4.争点
①切削加工の対象となる面が相違するかどうか。
(本発明) 「歯車の側面の端部」
(引用発明) ※引用文献では具体的に記載されていない。
②面取り形成箇所が相違するかどうか。
(本発明) 「歯筋方向の端縁角部」
(引用発明) 「歯部の内・外径端面部」 (注)引用文献では、「歯部の内・外径端面部」、「歯部の内外端面」、 「波形の内・外端面部」、「内・外端側」、「歯形の内外径端面」 というように、用語が統一されていない。
③上記①及び②の相違が進歩性判断に及ぼす影響。
5.裁判所の判断
(1)切削加工対象について
本発明の「歯車の側面の端部」は、「歯部全周の端縁角部」と判断。
引例の切削加工の対象は、明細書全体から、「歯部の歯面」と判断。
⇒したがって、切削加工対象は異なる。
(2)面取り形成箇所について
本発明の「歯筋方向の端縁角部」は、「歯部全周の端縁角部」と判断。
引例の「歯部の内・外径端面部」は、「歯部の歯面における内・外端面部」と判断。
(3)効果について
〈本発明の効果〉
「側面の端部」を切削加工する場合に、「面取り」を「歯部全周の端縁角部」に 形成することによって、噛み合い面である歯面にバリが発生することはない。
〈引用発明の効果〉
「歯部の歯面」を歯切り加工する場合に、「面取り」を「歯部の歯面における 内・外端面部」に形成することによって、取りしろを削り落とした際に発生するバリが内・外端側に突出することがない。
面取り部の歯面側の部位にはバリが発生するものである。
(4)上記(1)、(2)の如く構成において大きく相違し、上記(3)の効果においても大きく異なるから、両者は技術的思想として一致しない。技術的思想が一致することを理由に進歩性なしとする審決の判断は誤りである。
6.コメント
(1)両者は歯車(一方は傘歯車)、その製造方法、バリによる悪影響を除去することにおいて一致する。 また、鍛造により面取りを形成してから、切削加工をする点においても共通する。
そうすると、両者は同じ技術分野である。また、共通する技術的思想のもとになされた発明である可能性が大きいと思われる。
(2)そこで、上記効果を対比すると、文言上は奏される効果が異なるように思われるが、実質的に同じ効果だと言えないか。
本発明の効果は、上述の通りであるが、切削加工をすれば必ずバリが発生することからすると、「歯面にバリが生じない」=「側面端部を切削したときに生じたバリが面取り部に届くが、歯面まで届かない。」という意味であることが容易に理解できる。
とすれば、発生するバリを面取り部に逃がして歯面に突出させないようにするという点で、両者の効果は共通する。 となると、切削加工対象及び面取り形成箇所の相違だけで審決を誤りとした高裁の判断は、疑問が残る。